出版社内容情報
ユダヤ人強制居住区から脱出し、片腕と過去の記憶を失いながらも、嵐の月日を生きぬいた少年の実話。
内容説明
第二次世界大戦下のポーランド。ナチス・ドイツによるユダヤ人迫害の嵐が吹き荒れるなか、8歳のスルリックは、ゲットーの外へ脱出する。農村と森を放浪する過酷なサバイバル。少年は片腕と過去の記憶を失うが…。勇気と希望の物語。中学生から。
著者等紹介
オルレブ,ウーリー[オルレブ,ウーリー]
1931~。ポーランドのワルシャワに生まれる。第二次世界大戦中、ゲットーや隠れ家住まいをし、ベルゲン・ベルゼン強制収容所で2年間過ごしたのち、移送中に終戦を迎える。半年後、14歳で弟とイスラエルへ移住し、ヘブライ語を学び、抜け落ちた教育を受けなおした。25歳のとき、ホロコーストの体験を『鉛の兵隊』で発表。1996年、国際アンデルセン賞作家賞受賞
母袋夏生[モタイナツウ]
1943年、長野県生まれ。ヘブライ大学文学部修士課程実用言語コース修了。オルレブ作品の翻訳を多数手がける。1998年、ヘブライ文学翻訳奨励賞受賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ケイ
138
ポーランドのゲットーにいた少年の家族は、ゲシュタポから逃げるうちにバラバラになり、少年は逃げて逃げて逃げ続ける。その先々で出会う迫害と助けてくれる人々。彼のお父さんが言った「貧しい人ほど助けてくれるから、彼らの家を叩け」というのは、インド旅行をした友人が言っていたことに重なる。カーストの低い人ほど、ストリートにいる人の前に小銭置いていくと。常に手を伸ばす人もあったのだという記録は、こうして残すべきだと思う。『翻訳者による海外文学ブックガイド BOOKMARK』にて紹介されていた作品。2020/11/29
J D
71
いつの世も戦争の犠牲になるのは未来ある子どもたち。第二次世界大戦下のポーランドでのユダヤ人迫害のお話。「あのころは、フリードリッヒがいた」にも同じ悲しみがあるが、こちらは実話を元にした作品らしい。スルリックからユレクへと生きるために名前を変える。それでもユダヤ人として迫害を受け続けた。そんな中でも優しいドイツ人がいた。微かな優しさが少しだけ心を癒やす。ソ連軍のおかげでスルリックは生命を救われる。ぜひ、色んな人に読んで欲しいな!2023/06/24
ルピナスさん
70
ウクライナ報道で、親を失った子供達が戦禍を逃れ住み慣れた街を去るバスで、涙を隠せないけれども見送る兵士達に気丈に笑顔で手を振る姿をみて、胸が締め付けられる思いだった。私は子供達が反抗期で言い争いも度々あるが、美味しそうなものをみては食べさせたいと思い、良い映画を知れば一緒に観たいと思う。幸せでいて欲しいと思う。本書の主人公の少年はたった8歳で家族を失い、ユダヤ人である故に住む地を転々としながら、壮絶な状況を生きぬいた。心の準備なく突然親子を引き裂くような、誰かを生かすために誰かが犠牲になる戦争は本当に悪だ2022/04/11
ぶんこ
65
映画「太陽の帝国」で、日本軍の捕虜収容所にいたイギリスの子が、終戦時親の名前も顔も忘れている場面に衝撃を受け忘れられません。戦いのシーンよりも強く反戦意識をかきたてられました。この本も8歳の子がゲットーから逃げ出し、生き延びる為に名前を変え、家族の事を忘れ、必死に健気に生き抜いて終戦を迎える実話に基づく物語。ユレクの頭の良さと、仕事をサボったりしない誠実さ、人を頼ることの出来る素直さに感動しました。過酷な環境の中なのに、なんてポジティブなのかと驚きの連続でした。今の子たちにも勇気を与えてくれる本。2018/02/26
shizuka
53
多くのユダヤ人が迫害されていた時代。8歳の少年が一人で生きることとなった。この少年はとにかく悪運が強く、そしてとても賢い。本能的な賢さで幾度となく死の瞬間を免れてきた。読んでいてハラハラするシーンが、度々登場するが、そこは児童書かなりソフトに書かれている。名前を変えて生きろ。でもユダヤ人であることを忘れるな!父の遺言。彼は忠実に守った。忘れはしなかったが、決して口外しなかった。8歳だったからこそあまり「ユダヤの血」に執着することなく、生き延びることができたのかもしれない。子供の順応性はずっと「生」に近い。2017/02/02