内容説明
トロイア戦争末期。親友の敵討ちに奮戦するギリシアの英雄アキレウス、智将オデュッセウス、ほろびゆくトロイアの王子ヘクトールら、誇り高き戦士たちの闘いと死を描く。原詩に忠実かつ、読みやすい物語仕立ての再話。中学以上。
著者等紹介
ピカード,バーバラ・レオニ[ピカード,バーバラレオニ] [Picard,Barbara Leonie]
1917‐2011。イギリスの児童文学作家。サリー州リッチモンド生まれ。バークシャー州の聖キャサリン校で学び、図書館司書として働く。その間、独学でギリシア語を学ぶ。1949年にデビュー作短編集『人魚のおくりもの』が出版される。歴史フィクション、神話や伝説の再話などでとくによく知られており、数ある執筆作のうち、3作はカーネギー賞候補となった
高杉一郎[タカスギイチロウ]
1908‐2008。静岡県生まれ。東京文理科大学英文科卒業。和光大学名誉教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ヴェルナーの日記
306
著者ピカードのよるホメーロスの『イーリアス』物語。得てしてホメーロスの長編叙事詩は、口承によって伝えられていたために原文では、「固有名詞+形容辞」の形の数多くの決まり文句が挿し込まれている。例えば「俊足のアキレウス」や「白き腕の女神ヘーラー」のように定型句があって、口承するにリズム用いて完全な韻文による長詩を暗唱できるように工夫されている。だが、これらが一々文字として書かれていると読みづらさを感じてしまうのは否めない。そこで著者は本作において定型句を極力省き、読む物語として読みやすさを重視して編んでいる。2019/05/14
ずっきん
81
英児童文学者による再話。端折り感はあるが、原著では省かれてる背景説明から入ってくれるのがありがたい。イリアスといえばアキレウスでしょ、でもリアルならヘクトルだよねなんて思ってたけど、違うね。推しはなんつってもアイアース(大)だわ。質実剛健、大胆不敵、勇猛果敢、温厚篤実、うわ、なんぼでも出てくるうー。負けじと濃いキャラ達が絡み合いまくる怒涛のラッシュに一気読み。だー、面白すぎる。欧米文学を読む上でホメロスはちゃんと抑えとくべきだなあなんて思ってたところ、まずはとこちらをお薦めしてくれた読友さんに感謝♪2022/06/01
SOHSA
36
《図書館本》大叙事詩イーリアスの英訳リライト版の邦訳。トロイア戦争の始まりから終結までがわかりやすく、かつ各登場人物の生き様がいきいきと描かれている。少年向けとは言え内容は大人にも十分な深みがある。イーリアスはアキレウスを中心に語られた物語ではあるが、ギリシア勢、トロイア勢の一方を善とし他方を悪とするようなものではなく、それぞれの場面で各ヒーローにスポットを当てている。神々さえも二手に分かれて相争ったがギリシア勢トロイア勢共に得た益はなかったという戦争の不条理さが結論として述べられている点は秀逸。2018/08/18
Miyoshi Hirotaka
28
ホメロスの叙事詩の再話。ギリシアとトロイヤが黒海航路の覇権を巡り激突。地政学上では合理的動機だが、物語上では、黄金のリンゴをめぐる女神らの争い、世界一の美女の争奪という神々や人間の欲望がねじれ、予期せぬ意志決定の連鎖として描かれている。神々もそれぞれに味方し、防御や諜報で活躍。大船団での上陸、築城、補給という近代戦要素の描写加え、戦死者を回収するための休戦という倫理が機能していた描写もある。冒険譚や挿話は西洋の価値観に深く影響を与えた。長らく神話とされていたが、シュリーマンの発掘により実在性が証明された。2025/01/06
のれん
17
叙事詩最高傑作と呼ばれる戦記。原因は呆れるぐらい下らない所も含めて人の死を愛おしいと思える作品。 ただ主人公アキレウスを始め、人物全員が「怒り」を根底にしている所がオデュッセイアとは正反対の展開を生み出している。 報酬を不当に取られる怒り、誇りを汚される怒り、友を殺される怒り……主人公たるアキレウスは常に怒っている。そうでなくては自分でなくなるからだ。激情と言えばよいのだろうか、最後のヘクトールの言葉が衝撃的。鋼の心臓。怒りは人間的でありながら最も人間性を失わせる唯一の感情ということか。2019/06/17