出版社内容情報
谷間の僧院へ移ってきた少女は,僧院の静寂のなかで生きる人びとと,自然とともに生きる村人の双方から,数えきれない思い出をもらう.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
たつや
57
児童書とは思えないハイクオリティー詩的文体で、5才の私目線でドイツの町にあふれる兵隊から逃れるように離れた町の僧院に疎開する彼女の心境を描いていく、読んでる途中でタイトルは「静寂」でもいいんじゃない?と思うほど、静寂な情景が響いた。ところがその後の水面の波紋の描写を読んで、やはり、「波紋」で納得です。面白いではなく、戦争を別角度から描いた素敵な本でした。ただ、主人公は7才か8才くらいがしっくり来たと思う。あと、訳者のあとがきを最後まで読んだら裏話でがっかりしました。読まなきゃよかったあとがき。2016/12/01
帽子を編みます
18
この表紙、この少女に見つめられ手にとってしまいました。内容は、生活をスケッチしたみたいな話です。彼女は激しく苛烈な子なのです。私なら穏やかにぼんやりと過ごす日々も、彼女は鋭く激しく感じます。きっと目に映る景色も激しいものなのでしょう。なのに、修道院は静寂で厳かなのです。そして彼女は、その場を心の居場所としています。この表紙絵、挿画がイメージにぴったりです。画家 赤木範陸(あかぎのりみち)現在は日本在住のようです。西欧古典技法を発展させた絵画、色がないのに見ていると自分の中のイメージが膨らんでいくようです。2020/06/21
ぱせり
9
幼い少女が、水に小石を投げ、水面に波紋ができるのを見ていた水盤が、物語のおしまいにもう一度あらわれる。少女時代に彼女を育んでいた美しいものも静けさも、彼女をそのままよしと見守るものたちも、姿は見えなくても、いつでも、動かずに、変わらずにそこにあった。激しい嵐は、表面を吹くが、どんなに激しい力も、底の水を動かすことはできなかった。いまも、これからも。 2018/03/18
鳩羽
9
田舎の僧院に移り住んだ少女は、そこにある絵画や美術品、教えの神秘、自然の緻密な美しさを、高い感受性で受け取っていく。主体的に綴られていく少女の日々は、美しいものへの憧れ、隠されたものへの欲求、労働や献身の喜び、そして押さえつけようとするものへの怒りに満ちて、十代の生きづらい時期を突っ切ってゆく。動物的な感情に振り回されず、精神の冷静な規律こそを守っていくべきなのではないか。なぜなら、人生は悲しみと苦しみばかりを繰り返していくのだから、という境地が、透明な水の波紋に見え隠れする。2015/09/01
りんりん
7
池に石を投げ入れ、広がる波紋を見つめる感受性豊かな少女。感じやすかった10代の頃に読んでいたら、自分のバイブルになっていたかも。素晴らしい小説でした。2022/02/23