出版社内容情報
漱石が留学生活の大半を捧げ、のちに大学の講義録として形になった本書は、文学を「F+f」の定式で解剖した先駆的な文学理論書であると同時に、優れた文章読本、詞華集、創作論でもある。夏目先生が教える「文学とは何か」。
内容説明
三十代の若き漱石が「文学とは何か」を探り狂いそうになるまで打ちこんだ一世一代の、東西の文学を架橋する先駆的な文学理論書。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
てれまこし
11
文学とは何か。何の役に立つのか。論文を書こうという学生が一番やってはいけないのはこういう大きすぎる問いに答えようとすること。だが留学時代に漱石はまさにそれをやろうとした。で、やっぱりあまり面白くないのができた。当り前だがいかにも大学の講義調で、弟子に代筆させた前半はかなり退屈。漱石が書き下ろした第四編以降にようやく調子が上がっていく。だが、この作業が漱石の思想に「深み」を与えた。というのは、英文学という枠を越えて、哲学から社会学や心理学に移っていく世紀末の思想的潮流を漱石は吸収し、日本に伝えることになった2022/07/30
路雨
0
「〔…〕とにかく此Fなる者は全て具体的のものたることを忘るゝべからず。白沙青松に対し美なりと思ふ時のFの具体的なるは勿論の事、人に打擲せられて怒ると云へば此怒なるfの原因たるFは「人に打擲せらる」と云ふ、一種の心に描き出し得る光景なりとす。其他の場合に於てもfを引き起し得る為めには其Fが必ず具体的光景なるか、又は、これに改作し得るものならざるべからず。即ち月と云へば月の観念も元より必要なるべきも、先づ第一に欠くべからざるは月の光景なり、此画姿さへあらばfを生ずること容易なり。」2023/03/11