出版社内容情報
著者は、その歴史理論が相対主義的であり、ホロコーストの「真実」を歪めてしまうとの批判にさらされてきた。本書は著者が辿りついた「実用的な過去」という概念と、歴史叙述の方法論を収める。ホワイト歴史学の到達点。
内容説明
大著『メタヒストリー』で歴史学界に衝撃を与えた著者は、同時に、その歴史理論が事実とフィクションの区別を相対化するものであり、ホロコーストのような「限界に位置する出来事」の表象においては「真実」を歪めてしまうという厳しい批判にさらされた。本書は、ホロコーストの表象可能性について思索を重ねた著者が辿りついた、「実用的な過去」という概念と、歴史叙述の方法論を詳述した最新論文集である。ホワイト歴史学の到達点。
目次
第1章 実用的な過去
第2章 真実と環境―ホロコーストについて(何かを語りうるとして)何が正しく語りうるのか
第3章 歴史的な出来事
第4章 コンテクスト主義と歴史的理解
第5章 歴史的言述と文学理論
付録 歴史的真実、違和、不信
著者等紹介
ホワイト,ヘイドン[ホワイト,ヘイドン] [White,Hayden]
1928年生まれ。アメリカの歴史家・批評家。カリフォルニア大学サンタ・クルーズ校名誉教授
上村忠男[ウエムラタダオ]
1941年生まれ。東京外国語大学名誉教授。専門は学問論、思想史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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roughfractus02
6
過去は出来事に対する個々人の記憶痕跡からなるが、歴史は出来事を十全に記述する作業を自認し、それを事実と呼ぶ。そう歴史を捉える著者の近著は、一歩進んで、出来事の痕跡を記憶し、記述する際に必須の語り方(修辞)と物語パターン(ストーリー)を抑圧する「歴史的な過去」に、アウシュヴィッツという出来事を日記の並置させたザウル・フリートレンダーやプリーモ・レヴィの年代記的作品を対置させる。著者は、後者のようなリアリズム文学に、歴史に締め出されたフィクションを駆使して倫理的問いを引き出す「実用的な過去」の役割を見出す。2020/04/06
nranjen
3
ようやくヘイドン・ホワイトを読むことができた。非常に有益であるだけでなく、彼独特のロジックのスマートさが心地よく感じた。この本は表題にあるように「実用的な過去」の重要性が「歴史的な過去」と対置して述べられている。「歴史的な過去」は実証主義的流れの中で、国家権力の要請により19世紀に学問として制度化された歴史学で事実とされてきたことだ。しかし限られた人による、限られた証拠からなり人々の生に関わることが捉え損ねられている。それをレヴィ、ゼーバルト、フリートレンダなどの作品の表現から掬い出す試みもなされている。2021/12/06
田蛙澄
1
歴史哲学への興味から読んだが、ひょっとすると『メタヒストリー』を先に読んだ方が良かったのか。どうも言語論的転回の言語の構築性や解釈性を受け入れながらも、真実の多様性からゆり戻されて、史実と対応する実在的過去があるかのように読める部分があって混乱する。特に文学的だからといってフィクションな訳でないというのは、言語の構築性を考えるなら、そのノンフィクション性はどこに担保されてるのかという疑問が湧く。2022/09/03
ミスター
1
途中までは面白かった。歴史学のディシプリンがいかに生成されてきたかの話などは勉強になったが、「実用的な過去」についてはやはりぼんやりとしている。色々読んで行けば別なのかもしれないがホワイトの批判に比べて代案が弱いような気がしなくもない。2019/04/17
杉さん
0
社会科歴史VS歴史科歴史に示唆を与える可能性が大いにあると感じつつも、変に教育学の文脈に当てはめてしまっていいものなのかという不安も残った。文章を完全には理解しきれずモヤモヤが残るので、どこかしらで再度読み直したい。2020/05/04