出版社内容情報
欲動の経済論を越えて残酷さの彼方を思考し、主権の横暴(戦争や死刑)への対抗言説を紡ぐよう促す真摯な提言。
内容説明
精神分析は、欲動の経済論を越えて「残酷さの彼方」を思考することにより、主権の横暴が露わになる戦争や死刑に対抗する言説を紡ぎ出すべきではないか。精神分析の衰退と危機を背景として開催された会議における真摯で率直な提言。
目次
精神分析のとまどい―至高の残酷さの彼方の不可能なもの
アリバイなし
著者等紹介
デリダ,ジャック[デリダ,ジャック] [Derrida,Jacques]
1930年、アルジェリア生まれ。1984年、フランス国立社会科学高等研究院(EHESS)教授に就任。2004年没
西宮かおり[ニシミヤカオリ]
1971年生まれ。EHESS社会学博士課程単位取得退学、東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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34
20
精神の残酷さをわがこととしてアリバイもなく担うことができるもの、それが精神分析なのだが、その「アリバイなし」はいささか両義的だ。すでに起こってしまったものとしての父殺しに対して、主体であるかぎりでの主体は、別のところにいたとはだれも言うことができない。と同時に、戦争やテロリズムのような大いなる悪に対して、精神分析の言説はアリバイを与えてしまうものでもあるかもしれない。「何を為すべきか」という問い、「わたしはこれを、いかな主権をも、いかな残酷さをも超えた彼方へと、アリバイなしで担ってゆくつもりだ」。2018/09/13
たばかる
19
2000年に行われたデリダの講演。精神分析の開いた可能性は多かったけれども、それが制度や立法に使われていない。精神分析が世界のシステムに接続することで、「進歩」をもたらす....講演という形式で、そのまま文字起こししたらしく、だいぶ読みづらい。2020/01/24
アルゴス
2
デリダは精神分析については何冊もの書物を刊行しているが、これは開催された会議の特殊な性格にあまりに引っ張られているという印象を受ける。デリダはフロイトとラカンの精神分析のユニークさを高く評価する。精神分析の示した概念的な装置を使わずには、思考できないものがあるからだ。しかし精神分析のうちには、みずから提起した問題からしり込みしてしまうようなところがある。治療という営みには、分析を受けた人を社会的に安定した状態に回復させるという目的があるからだ。デリダはそれに抵抗し、残酷さに直面するように、求めるのである。2017/12/24