内容説明
ヒトの子どもは円と円を組み合わせて顔を描く。でもDNAの違いわずか1.2%のチンパンジーにはそれができない。両者の比較からわかってきた面白いこととは?キーワードは「想像」と「創造」。旧石器時代の洞窟壁画を出発点に、脳の機能や言語の獲得など、進化と発達の視点から考察する。芸術と科学の行き来を楽しみながら、ヒトとは何かを考えよう。
目次
プロローグ 洞窟壁画を訪れる
1 描く心の起源を探る旅の出発点
2 ヒトの子どもとチンパンジー
3 「ない」ものをイメージする力
4 なぜ描くのか
5 想像する芸術
エピローグ 芸術と科学の間で
著者等紹介
齋藤亜矢[サイトウアヤ]
1978年茨城県生まれ。京都大学理学部、京都大学大学院医学研究科修士課程を経て、東京藝術大学大学院美術研究科博士後期課程修了(博士(美術))、日本学術振興会特別研究員、東京藝術大学非常勤講師等を経て、現在、京都大学野生動物研究センター特定助教。熊本サンクチュアリ勤務(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
261
ヒトはなぜ絵を描くのか―この問いには、それが楽しいからだ、といういたってシンプルな答えが返ってくる。つまり、言葉を変えれば、物理的な報酬以外の報酬―すなわち描き手は快感を得ているのである。本書はアルタミラ等に残された数万年前に描かれた絵に始まる芸術の胚胎を考えるとともに、つまるところは人間にとって認識するとはどういうことかを「描くこと」を手がかりに考察したものである。そして、ヒトはどうやら言語能力を獲得するかわりに、映像記憶能力を失ってしまうらしいのだ。チンパンジーの対照実験をはじめ興味深い試みに富む。2015/07/15
けんとまん1007
70
絵を描くことは、あまり得意ではない。見るのも、ほどほど。決して、わかろうとして見ているのではなく、何となく感じるものがあればいいというくらいで。それでも興味はある。そんな絵を描くという行動自体が、興味深く解かれている。認知科学という視点が面白い。生物としての進化との関連性も、なるほどと思う。進化の歴史は、人が生まれ成長する過程にも表れているというのは、素人なりにも想像できる。描き心地という感覚も、納得だ。2023/02/09
booklight
30
【拾読】答えは、なかった。むしろ、なぜ淘汰されなかったか、と考えるべきか。幼児やチンパンジーの描く様子から、世界に対する働きかけ、具象的な絵、記号的な絵、記号的に共有するための絵、などの話を紐解く。社会を、共同幻想を共有するのに役立ってきた。神を描くことで、神を共有しやすくなる、ということか。描くこと自体は無報酬でもやるほど楽しいコト。チンパンジーも同じ。社会性と個人の楽しみという他の感覚と同じであるなら、答えがないのも理解できる。人間の存在に答えがないように、たまたま残った能力なんだろうな、きっと。2023/06/18
りょうみや
22
絵を描くということと芸術に関して、チンパンジーとの比較とヒトの発達過程の観点、具体的にチンパンジーと幼児の描く絵の実験から考察している。タイトルの答えは推測の域をでないのだけど納得させられる。ヒトが持つ想像力と創造力、視覚的イメージングと言語能力とのトレードオフらしく関係がおもしろい。この分野をもっと読んでみたくなった。著者は修士までは京大、博士課程は東京藝大という特異な経歴。本書もそれが活かされれているよう。2023/07/02
calaf
21
サブタイトルの「芸術認知科学」って、初めて聞く名前だなぁ...と思っていたら、この著者の造語であるらしい (^_^;;; 京大理学部から医学研究科、その後大学院博士課程から東京藝術大学に移るという経歴を持つ著者が、人に説明するためにつくり出したモノで、広めていきたいと思っているらしい (^_^;;; それはともかく、この人のやっているのが、芸術と科学の融合の世界の研究というのは間違いないようです。2014/04/17