内容説明
被差別部落、女性、ハンセン病患者・回復者、障害者、アイヌ民族、在日韓国・朝鮮人、沖縄…なぜ日本には今なおさまざまな差別が存在するのだろうか。差別の根源に、多種多様な人びとを近代的・画一的な価値観へ囲い込み、そこからはみ出す者を排除する社会の枠組みが存在することを、具体的な差別のあり方の歴史的変遷を辿りながら描きだす。
目次
第1章 国民国家の成立と差別の再編(開化と復古―身分制の解体/再編;「国民」の境界 ほか)
第2章 帝国のなかの差別と「平等」(植民地の領有;新しい女/農村の女性 ほか)
第3章 アジア・太平洋戦争と動員される差別―「国民」と「非国民」(アジア・太平洋戦争の開始と棄民;優生思想による排除 ほか)
第4章 引き直される境界―帝国の解体(日本国憲法と平等権;境界の引き直しと人流 ほか)
第5章 「市民」への包摂と排除(引かれる境界―格差の告発;高度経済成長したの女性 ほか)
第6章 「人権」の時代(復帰か独立か―沖縄差別論;差別の微表と「誇り」―被差別部落 ほか)
第7章 冷戦後―国民国家の問い直しのなかで(裁かれた隔離;ジェンダーからの問い ほか)
著者等紹介
黒川みどり[クロカワミドリ]
静岡大学教育学部教員。日本近現代史
藤野豊[フジノユタカ]
1952年生まれ。敬和学園大学人文学部教員。日本近現代史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ゆう。
20
日本の差別問題を日本近現代史を顧みるなかで、今何が問われているのか考察した本だと思います。戦前の天皇制国家の支配体制のなかで、身分差別をはじめ様々な差別問題が利用され、生み出されていたことがわかります。戦後になり、民主憲法が制定されて以降は、形式上は差別を乗り越えようとしているわけですが、部落問題や女性差別、ハンセン病の問題など、差別は温存され、時の権力に利用されてきました。そうしたなかでも、運動の拡がりのなかで乗り越えてきている問題もあるのだと思います。差別に意識的になることの重要性を改めて思いました。2016/09/12
coolflat
15
123頁。GHQ草案では、法の下の平等について「一切ノ自然人ハ法律上平等ナリ政治的、経済的又ハ社会的関係ニ於テ人種、信条、性別、社会的身分、階級又ハ国籍起源ノ如何ニ依リ如何ナル差別的待遇モ許容又ハ黙認セラルルコト無カルヘシ」としていた。しかしその後、幣原内閣は大幅な書き換えを行い、「凡テノ国民ハ法律ノ下ニ平等ニシテ、人種、信条、性別、社会上ノ身分又ハ門閥ニ依リ政治上、経済上又ハ社会上ノ関係ニ於テ差別セラルルコトナシ」と記した。法の下の平等が保障されるのは「国民」に限定されたのである。2017/07/12
coolflat
13
被差別部落、女性、ハンセン病患者、障害者、アイヌ、在日朝鮮人、沖縄、現代の日本には様々な差別が存在する。なぜこうした差別は存在するのか。本書はそれを近現代日本の歴史の中で解明している。日本は開国により帝国主義を志向し、植民地を持つに至るが、その事は単に植民地をはじめとするアジアの人々に対する差別を生むだけでなく、国民国家-帝国のあり方をも規定し、それに見合った差別の構造を作った。そしてそれは敗戦によって植民地を喪失した事で克服された訳ではなく、今なお、その根が断ち切られないまま形を変えて存在し続けている。2017/05/31
ア
4
個々の差別を横断し、近現代日本における「国民」への包摂と排除の歴史を描く。それぞれの差別問題ごとに特有の内容や性質はあるのは当然だが、本書は、各時代ごとにそれらに共通する構造を指摘した点に特長がある。同化と異化のせめぎ合い、国民や民族をどう捉えるか、共同体内部の他者にどう向き合うか、こういった問題について考えさせられた。2021/05/03
Naoya Sugitani
1
非常に重いテーマだが、しっかり向き合わなければならない。ハンセン病、在日韓国朝鮮人、女性、部落、沖縄、底辺労働者問題等なぜ差別されていたか、を抉り出す一冊。また戦後になると公害病患者や生活保護受給者への誹謗中傷も取り上げれている。読んでいてとてもしんどい本だが、こういう研究にこそ歴史学の一つの真骨頂があるように思う。2017/09/05