内容説明
日本の社会主義は、資本主義・帝国主義に対する最大の抵抗勢力、平和を求める思想・運動であったと同時に、原子力にあこがれ裏切られる歩みでもあった。その軌跡を、知識人言説やSF小説など戦前から現在までの様々な資料からたどり、「社会主義・共産主義の神話」と「原子力の平和利用神話」とが日本でなぜ結びついたのかを抉り出す。
目次
序章 現代日本における「非核・平和」
第1章 日本の社会主義―「非戦・平和」からの出発
第2章 ロシア革命、関東大震災と社会主義
第3章 近代化のための社会主義・共産主義・原子力
第4章 占領下日本の原爆・原子力
第5章 原子力にあこがれた社会主義―武谷三男の場合
第6章 「アトムズ・フォー・ピース」の日本的受容
第7章 平野義太郎と日本共産党の「平和利用」論
第8章 日本社会党と有澤廣巳の「原子力と社会主義」
終章 社会主義の崩壊と脱原発運動
著者等紹介
加藤哲郎[カトウテツロウ]
1947年岩手県生まれ。東京大学法学部卒業、博士(法学)。現在、早稲田大学大学院政治学研究科客員教授、一橋大学名誉教授。英国エセックス大学、米国スタンフォード大学、ハーバード大学、ドイツ・ベルリン・フンボルト大学客員研究員、インド・デリー大学、メキシコ大学院大学客員教授等を歴任。専門は政治学・比較政治・現代史。インターネット上で「ネチズン・カレッジ」主宰(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
おおにし
11
チェルノブイリ事故後の反原発運動に参加した時、私は左翼運動のつもりだったのだが、核の平和利用を目指す日本共産党は当時盛り上った脱原発法制定の市民運動をつぶしにかかっていたことをこの本で初めて知った。3.11以降、日本共産党もようやく原発ゼロの主張を始めたが、脱原発とは言ってないのは今でも原子力の平和利用をあきらめたわけではないからだ。佐藤栄作ら原発推進政治家の本音が日本の核保有であったことが最近暴露されているが、それでもまだ脱原発へ舵のきれない日本共産党は一度しっかり過去を“総括”すべきでしょうね。2014/03/14
Francis
8
日本の20世紀の社会主義を戦後の原子力政策との関わりから辿る。最初の被爆国であるにもかかわらず、原子力技術の可能性を信じて核兵器には反対しつつも、原子力発電には保守勢力と同じくらい積極的であり、高木仁三郎さんらの脱原発運動を潰そうとするなど、日本の社会主義の原点たる「非戦・平和」を忘れた日本社会党・日本共産党の歩みには失望。反省なきまま脱原発を主張してもウソ臭く思われて当然だと思う。それにしても過去の戦争を反省できない日本の右翼もそうだが、右翼・左翼は自らの過去に真剣に向き合うことができない人たちなのか。2015/06/09
coolflat
7
左派勢力がいかに原発政策に寄与してきたかを解説。米日支配層には当時国論を二分した再軍備・改憲論と非武装中立・護憲論の対立を止揚し安定した政治基盤を形作るため非武装中立・護憲論を許容してもなお国家が崩壊しない国防上の保障を作る目的があった。その保障が原子力の平和利用とそれによる潜在的核保有国化だ。一方左派にとっては原水爆禁止の主張が重要だった。保守を巻き込むため原子力の平和利用を視野外に置いたのである。因みに70年代まで社会党は反原発の立場をとらず、共産党に至っては今日まで原子力の平和利用を否定していない。2014/05/11