内容説明
『失われた時を求めて』の冒頭部「コンブレー」を取り上げ、主人公の眠れぬ夜の時間意識、登場人物たちの思いがけない造形過程、サンザシの匂いや色彩などの相を精細に読み解く。細部から壮大な全体へと及んでゆく精妙なプルースト的生成を、長年の研究蓄積を踏まえて鮮やかに開示する。岩波文庫版『失われた時を求めて』の個人全訳に取り組む著者による最良のプルースト入門。
目次
第１章 序曲「不眠の夜」（「不眠の夜」の意味；「不眠の夜」の成立過程）
第２章 「コンブレー」の構成（シンメトリックな構成原理；「悲しい夜」の匂いと音；「街」の教会）
第３章 「スワン家のほう」と「ゲルマントのほう」（ふたつの散歩道；スワンの肖像；ゲルマント公爵夫人の夢と現実）
第４章 芸術への道（芸術家の人と作品―ヴァントゥイユ父娘；文学の受容から創造へ）
第５章 比喩の魔力と根拠―サンザシの描写（祭壇のサンザシ；生け垣のサンザシ）
著者等紹介
吉川一義［ヨシカワカズヨシ］
１９４８年大阪生まれ。東京大学仏文専攻博士課程満期退学。パリ＝ソルボンヌ大学第三課程文学博士。東京都立大学教授、京都大学文学研究科教授を歴任。京都大学名誉教授。著書に『プルーストと絵画』（岩波書店）、Ｐｒｏｕｓｔ ｅｔ ｌ’ａｒｔ ｐｉｃｔｕｒａｌ（Ｃｈａｍｐｉｏｎ、カブール＝バルベック文学サークル文学賞、恩賜賞・学士院賞）などがある（本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです）
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感想・レビュー
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夜間飛行
61
和訳で読んでも気づかない時制論が参考になった。例えば冒頭の複合過去から半過去へという時制移動は、小説の構造と密接に関わっているらしい。著者はこの物語の話者が、長い「時」の外に立ちながらその「時」の内部にも身を置いているのだという。つまり目覚めた者が夢を語る…しかも夢の中にいるように語るのがこの小説の文体なのだ。こうした「夢うつつ」の心理状態、いわば《現実と夢の境界域》に読者を導くために独特の読み辛さが生じている。ならばプルーストの文体は言葉が本質的に孕む「闇」を露呈しているわけで、そこに魅力もあると思う。2016/05/26
おおた
26
『失われた時を求めて』を挫折したままの人に手に取ってほしい。正直本書の内容は研究書レベルで「誰でもわかるプルースト」ではない。しかし何が書かれているのか、何を楽しめばいいのか、そして一見不定形に見える夢や風景の描写がいかに練られたものかを読んでからは、コンブレーの風景が変わって見えることでしょう。スワンが訪れる鈴の音ひとつとっても、幼少の語り手が感じた不安や、見慣れた物体を限りないと思えるほどの比喩を使って読者に伝える技術が読み取れる部分は感動。10巻を読んでいるのに1巻から読み返したくなる優れた解説書。2021/01/17
FA743
5
著者が訳した岩波文庫の1巻にあたる箇所について解説したもの。一般向けに書かれているのですごく分かりやすい。1巻のスワンの方へに物語全体の伏線が張り巡らされていることが分かる。2015/09/07
七草奈々子
3
『失われた時を求めて』第一編冒頭の「コンブレー」を追う。プルーストの小説の精密な構造や、彼特有の比喩の用法などの解説により、コンブレーでの世界がどのように広がっていくのかを解説する。『失われた時を求めて』をいっそう面白くする本であろう。2018/03/15
belier
3
「失われたときを求めて」の岩波文庫版だと１巻部分の詳細な解説。読み進むだけでも難儀するこの小説をここまで噛み砕いて解説してもらえると助かる。自分はこの著者の訳でやっとこの小説を「囚われの女II」まで読むことが出来た。ちょうどその巻と１巻とのつながりがよくわかり、いいときに１巻を再読しこの本を読んだことになった。ただ、長大な小説の結末に近いネタバレがあり、それは注意だろう。自分はそれを知ったうえで今後の巻が出るのを楽しみするということになった。まあこれほど長くて難解な小説ではそれもいいのではなかろうか。2017/07/03
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