出版社内容情報
孔子は弟子たちに向かい,常々,「何ぞ詩を学ばざる」と語りかけたという.詩経は人間的な素養を豊かにする入口となるものだと位置づけられていたのである.農耕儀礼の歌,男女関係を描いた歌,社会的混乱を反映した歌――.多様な地域,階層の人々の間に生まれた305篇.言葉の持つ力を畏怖し,信頼していた太古の世界へと誘う.
内容説明
思いを載せ、届ける歌の力への確信。儒家の経典の一つとして大きな権威を持った三百余篇の詩歌は、いかなる環境のもとで生まれ、どのような人々の間に歌われたか。
目次
第1部 書物の旅路―古代歌謡集の形成と伝承(詩経の形成;孔子と詩経;経典化した詩経とその注釈)
第2部 作品世界を読む―歌の力(宗廟歌謡の伝承―生民如何(民を生むこといかに)
農耕の日々―自古有年(古より年あり)
貴族と民衆たち―王事靡〓(王事 〓(もろ)きことなし)
時代の混乱と言葉の力―天之方虐(天のまさに虐をなす)
孤独と悲しみ―我心匪石(わが心は石にあらず))
著者等紹介
小南一郎[コミナミイチロウ]
1942年、京都市に生まれる。1969年、京都大学文学研究科博士課程単位取得退学。京都大学人文科学研究所教授、龍谷大学文学部教授を歴任。現在は、泉屋博古館館長、京都大学名誉教授。専攻は、中国古代伝承文化史研究(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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さきん
25
日本でいう万葉集のようなものの中国版。時代は殷から春秋戦国時代中期まで。移動生活から農業を軸に定住を始め、やがてクニができ始める。時代が進むと統治が複雑になり、知識層、官僚ができ、王も民衆と乖離し始める。王権神授の説によって歌が詠まれたり、儀式や歌、宴会を読んだり、男女の恋愛や夫婦の離別を謡ったり。王やその取り巻きを批判する歌もあった。2016/12/11
ゆうきなかもと
6
儒教の四書五経の五経の一つ、詩経を様々な側面から解説しているのが本書。最初の3章は、詩経全体の解説としてよくまとまっており、『詩経とは何か』をざっくり知りたい人にぜひ読んでほしい解説である。 断章主義的に印象に残った部分を以下に引用『社会の混乱の中で、悪意のある讒言などが人々の信頼関係を引き裂き、混乱をいっそうひどいものとしていた。そうした状況は、皮肉なことに、言葉の持つ力に対して、新しい認識を呼び起こしたのである。』 昨今の炎上ブームも、新しい言葉の力を見出す機会となるかもしれん。2021/08/16
春埜秋岡
1
悪意ある言葉が混乱をもたらすことを認識し、それに対して言葉で抵抗しようとした「知識人」による詩篇という観点が自分にとっては斬新だった。中国の史書などには讒言に関する話題がいくらもあり、自らの潔白を訴える作品がそれに伴い残されているが、本書の解説に現れるのは「言葉」の力を自覚した詩人の姿である。2018/05/07