内容説明
厳しい乾燥地帯に誕生した一神教としてのイスラームの理想空間が、多様な圏域へどのように展開し、変容してきたのか。イスラーム建築と諸地域の既存宗教建築との関わりに注目し、民族の移動や宗教の広がりが建築文化に与えた影響をヨーロッパから東アジアまでを含めて考察。代表的なイスラーム建築を豊富な写真、図版とともに時代を追って辿る。
目次
第1章 イスラーム、誕生とその前夜―紀元七〇〇年以前
第2章 アラブ統一様式の創出―七〇〇‐一〇〇〇年
第3章 ペルシア文化復興と十字軍―一〇〇〇‐一二五〇年
第4章 モンゴル帝国の遺産と地方文化の再生―一二五〇‐一五〇〇年
第5章 イスラーム大帝国の絢爛―一五〇〇‐一七五〇年
第6章 「イスラーム建築」の創出―一七五〇‐一九五〇年
第7章 イスラーム建築の現在と未来―一九五〇年以後
著者等紹介
深見奈緒子[フカミナオコ]
1956年、群馬県生まれ。東京都立大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程修了。博士(工学)。東京大学東洋文化研究所客員教授を経て現在、早稲田大学イスラーム地域研究機構研究院教授。専攻はイスラーム建築史、インド洋建築史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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壱萬弐仟縁
19
巻頭は16頁に及ぶカラー写真が美しい。本文も白黒写真多数、地図で見応えあり。カーバ神殿は、幅12m、奥行10m、高さ15mの直方体石造建築(17頁)。東の角に、黒く光る石が埋め込まれている。隕石か。黒石神殿と呼ぶ所以(18頁)。イスラーム支配下のイベリア半島のキリスト教徒が造った教会堂はモサラべ様式という(60頁)。初めて聞いた。繊細さといえば、ミフラーブには、サーサーン朝以来の伝統である漆喰の浮彫細工 が用いられたという(80頁)。 2014/10/20
こつ
13
ため息が出るほど美しいです。写真は本文中にもふんだんに出てきますが、小さく白黒です。それでも十分なくらい洗練されたフォルムと装飾に目を奪われます。アジアと欧州の間に位置し、あらゆる文化を巻き込んで発展を遂げたイスラム文化。独自の美しさがあるのに、欧米化というか近代化というか無機質な高層マンションが立ち並んでしまうのは残念です。もちろん日本にも言えることですが。2022/01/25
MUNEKAZ
12
イスラームの誕生から現在までの、イスラーム建築の歴史を俯瞰的に見た一冊。アラブの乾燥地に萌芽したイスラーム建築が、大征服によってペルシャやインド、地中海沿岸の様式を吸収し、発展していく様子が多くの図版を添えて紹介される。イスラームをヨーロッパと対峙するものとして捉えるのではなく、ルネサンスや新古典様式など西欧建築との共時性に着目したり、環インド洋海域史からインドと東アフリカ沿岸の技法や装飾の共通性をみる部分など、面白い記述が多い。ただ全体的に駆け足な内容で、ちょっと詰込みすぎな感もあるかな。2021/05/21
アメヲトコ
9
2013年刊。同著者による『イスラーム建築の見かた』の焼き直しかと思いきや、こちらは時代順に世界史の流れに沿って建築のありようを追っていく構成です。しかもイスラーム建築のみにとどまらず、中国や日本、あるいはインドやヨーロッパの同時代の建築状況との比較もなされ、まさに世界スケールの叙述となっています。これを読むと西洋建築など建築の大正義面をしていてもそれは世界建築史の一つの幹に過ぎず、他地域の建築文化との相互関係の中に存在していたことがよく分かります。多数の図版を用いた圧倒的な情報量に眩暈。2023/01/05
ジュンジュン
5
建築とはその土地に固有であること。人、モノ、情報の移動によって変容を遂げること。これらを踏まえて、空間的(地域)時間的(歴史)にイスラーム建築を検討する。ここまでは○。本書ではさらに、イスラーム建築という”狭い”分野から離れ、世界建築史のなかで捉え直そうとし、ついで建築物の背景も関連付けたい、と。女史のこの野心的な試みは成功しただろうか?残念ながら、詰め込み過ぎて話がとっ散らかり、最初のコンセプトがぼやけてしまったと思う。私見~代表的な物だけ取り上げ、近代以降もバッサリ切ったほうがすっきりしたと思う。2020/08/29