出版社内容情報
現代社会において、経済は王である。しかし経済の起原とはいったい何なのか。本書では、贈与、所有、貨幣、負債等を主題に、経済をめぐる二つの問いを追究する。第一に、贈与が支配的な交換様式から商品交換が支配する交換様式への転換はどのように生じるのか。第二に、人はそもそもなぜ贈与するのか、である。(解説=市野川容孝)
内容説明
経済は、人間にとって生のごく一部であり、ほぼすべてでもある。それは何なのか?「起原」から問う。大半の問題が経済の論点に還元される現代社会では、経済は王である。しかし、経済とはそもそも何であり、そこには、いかなる論理が見いだされるのか。その起原を明らかにすることから、経済それ自体を通じた政治的な権力の内発という問題、また正義とは何かという考察にも導かれる。大澤社会学の最新地平!
目次
第1章 経済の起原をめぐる二つの問い
第2章 貨幣論再考
第3章 原始貨幣と男の名誉
第4章 所有と贈与
第5章 ヒエラルキーの形成―再分配へ
第6章 商品交換と市場経済―そして「軸の時代」の転換
結ばぬ結び“互酬の正義”を超えて
著者等紹介
大澤真幸[オオサワマサチ]
1958年生まれ。社会学者。著書に『自由という牢獄―責任・公共性・資本主義』(岩波現代文庫、2018年。河合隼雄学芸賞)、『ナショナリズムの由来』(講談社、2007年。毎日出版文化賞)など(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ころこ
36
表向きは『新世紀のコミュニズムへ』とほぼ同じ論点ですが、実は『〈世界史〉の哲学 東洋篇』の方が近いと思います。本書は現行の経済を学びたい人にとってあまり得るところがないでしょう。経済の原理を転倒させることでオルタナティヴを構想するのが本書の目的です。互酬的な贈与であれ商品交換であれ、なぜ経済に留まる交換様式しか発生しないのか。贈与はいっけん良いことにみえるが、戦争は贈与の一形態、贈与の失敗ともいえ、贈与は諸刃の剣だと考えられる。完成形では純粋な贈与は自己否定に陥るが、逆に原初形態に戻ったらどうであろうか。2022/02/04
iwtn_
5
交換(分配)を狭義の経済と定義し、その方法の発展をグレーバーの負債論や文法の中動態、インドのカースト制度、西洋哲学などを引きながら、貨幣の誕生と流通までと、今後の展望について語る。 読んだ結果、次のような疑念を覚えた。グレーバーは交換の必要性によって貨幣が誕生したという経済学の神話を文化人類学的に否定したわけだけど、この本は普遍的な連帯に基づくコミュニズムというものが発生しうるという神話を作り出しているだけではないか?まだ解説の、既に実現されているかもしれない社会保険制度の例のほうが納得できた。2022/02/13
天婦羅★三杯酢
4
何とか目を通した。余りにも壮大な”社会理論”である。全体の構成は『資本論』『贈与論』『負債論』であるが、ヘーゲルやポランニーやカントやインドのカーストやギリシャ悲劇やらへの言及がある。カーストという言葉そのものはポルトガル語であると知る。とにかく、経済学というよりは文化人類学的な成果物のプリコラージュというイメージが強い。あとがきを読むと、そもそも10年以上続けた勉強会が元になっているらしく、つまりはその個々のレポートをつなぎ合わせたものなのかという感想。2022/02/20
がんぞ
2
経済の初めは物々交換で、商品が多様化すると需要供給の一致が困難だから通貨が生まれたとアダムスミスは言う。しかし!「ぐりとぐら」のような無償提供が最初にあったのではないか?/二匹がカステラを分けたように原初、贈与があったのではないか。最大の贈与は美女嫁でそれは他の物の対抗贈与によって解消されない血縁関係となる。奴隷が生じると血縁でない商品の男女が発生する/同シリーズ「おきゃくさま」ではサンタクロースが登場。なぜ両親でないか/シュバイツァー博士は治療された土人にとって妖精的存在であったからプレゼント要求された2023/01/04
シマ
1
経済には生産、消費そして本書で重視する交換の局面があり、それは貨幣によって担われる。その貨幣は手段でしかなく消費できない、つまり回収できない負債として流通しているもの。負債をキリスト教に託して説明している。負債=原罪は神=キリストが人となりその死によって贖わられ、その不在が信仰共同体を成立させたという。この小さな共同体には負債=貨幣はその原理を為さないが、他との共同体との間、外部では有効な原理としてある。負債を免れるコミュニズムは小さな共同体のものでしかない、コミュニズムを原則とした共同体の可能性は?2022/10/29