出版社内容情報
中世一千年の間に西欧は「声」中心から「文字」優勢の社会へと変貌した。その変化はラテン語/俗語、エリート/民衆、教会/世俗など、中世社会のもつ二重性とどう関わるのか。ユニークな角度から中世世界に迫る力作。
内容説明
中世一千年の間に西欧は「声」中心から「文字」優勢の社会へと変貌した。その変化はラテン語/俗語、エリート/民衆、教会/世俗など、中世社会のもつ二重性とどう関わるのか、ユニークな角度から中世世界に迫る。
目次
シエナ、一四二七年八月一五日
ラテン語から俗語へ
カロリング・ルネサンスの光と影
ストラスブールからヘイスティングズへ
大分水嶺
声と文字の弁証法
遍歴商人からもの書き商人へ
文字のかなたに声を聞く
俗人が俗語で書く
母語の発見
著者等紹介
大黒俊二[オオグロシュンジ]
1953年生まれ。大阪大学大学院文学研究科博士課程単位取得。現在、大阪市立大学大学院文学研究科教授。専攻は、中世イタリア史。研究テーマは、スコラ学の経済思想、説教、商人社会史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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サアベドラ
16
中世ヨーロッパにおける言語と社会の諸相を描き出すユニークな論考。ラテン語と俗語、書き言葉と話し言葉、識字者と非識字者、「声の文化」と「文字の文化」、記憶と記録など、当時の「声と文字」に関する様々な側面を、説教集や行政文書、商人文書などを駆使して提示し、それによって中世ヨーロッパの言語社会の全体の流れを鮮やかに描き出す。このシリーズのなかでも特によくできていると思う。おすすめ。2013/08/05
つまみ食い
5
ラテン語を理解することが則ち「文字を知る人」であり、俗語しか理解しない俗人は「文字を知らぬ人」と目されていた二重言語体制から、商取引はもちろん宗教的言説や文学言語も俗語で行われるようになるまでを描いた短いながらに充実した本。未訳のものを中心に、書体や俗語の社会的評価の変動などを論じた文献リストも充実しており勉強になる(一方、デリダやアンダーソンなどテーマ的に強い関連がありそうなのは、省略されているのか入っていないのは少し気になった)。特に『チーズとうじ虫』あたりが好きな人にはおすすめ。2023/06/22
はる
5
嘘と貪欲では中世ヨーロッパ世界の商人商業を中心にラテン語文字を知る人の活動と現実商業の世界が展開された。こちらではラテン語が会話から文書語へと特権化するなかでロマンス語などの俗語が聖書布教活動に盛んに使われ出し文字を獲得していったことや、結果としてフィレンツェは七割近くの人がフィレンツェ方言で文書のリテラシーを獲得していた。イングランドでもラテン語文字の英語への利用がすすでいた。時代時代に有能な支配者が現れたことは言葉の整理と標準化を進めた。→2021/10/07
MUNEKAZ
5
これは面白い本。「ラテン語」と「俗語」の二重言語体制にあった中世ヨーロッパで、次第に後者が優位になり、前者に成り代わっていく様子が鮮やかに描かれている。外国語として「ラテン語」に接したアングロサクソン圏で「分かち書き」の技法が生まれたり、「俗語」文字の使用が盛んになったイタリアの諸都市では、お気に入りの説教を集めた同人誌のようなものが作られていたりと興味深い事例が多く紹介されている。終章にもあるように、こうした「俗語」の発展が、近代国家に繋がっていくのだ。2017/04/07
iwasabi47
2
カロリングルネサンスからイタリアルネサンス活版印刷前夜までの羅語と俗語の読み書き。最初15世紀伊都市で羅語テキストを元にした俗語の説教とそれを速記復元する話(圓朝と口述筆記)から始まり、そこから時代を古代ローマ後期に遡る。 文字(羅語)を読み書きできるから文字が重要と知りながらも読み書き不十分或いは読みだけできるまでのグラデーション。実用的リテラシー(読み書き算盤)から私的覚書や抜き書きする(zine?)に文学的リテラシーの15世紀伊の都市民。また構成がよく、章最初にポイント示される。わかりやすく。2024/02/13