内容説明
思想弾圧が最も厳しかった時代に、個人としてさまざまなやり方で戦争国家に抗った人びとは、確かに存在した。在野の学究・細川嘉六、平和教育の実践者・鈴木弼美、農民伝道一筋の信仰者・浅見仙作、非戦論の僧侶・竹中彰元、農村図書館を構想した浪江虔。『大逆事件―死と生の群像』(日本エッセイスト・クラブ賞受賞)で丁寧な取材をもとに事件の実像に迫った作家が、屈せざる人びとを掘り起こし、その生涯を鮮烈に描き切って、戦後最大の曲り角の今に伝える。
目次
第1章 屈せざる人 細川嘉六
第2章 「土の器」のキリスト者 鈴木弼美
第3章 「剣を収めよ」浅見仙作
第4章 言うべきことを言った非戦僧侶 竹中彰元
第5章 図書館に拠る 浪江虔
著者等紹介
田中伸尚[タナカノブマサ]
1941年東京生まれ。慶應義塾大学卒。朝日新聞記者を経て、ノンフィクション作家。『ドキュメント 憲法を獲得する人びと』(岩波書店)で第8回平和・協同ジャーナリスト基金賞。明治の大逆事件から100年後の遺族らを追ったノンフィクション『大逆事件―死と生の群像』(岩波書店)で第59回日本エッセイスト・クラブ賞(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
- 評価
京都と医療と人権の本棚
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
壱萬参仟縁
36
過去と対話をし兵戈(ひょうが)無用とした戦後に生きるわたしたちは、今や紛うかたなく抵抗の時代に入った思いを込めた1冊(ⅵ頁)。細川嘉六:日清・日露戦後日本は、欧米帝国主義に追従。亜流の進路驀進、アジア諸民族の領導に失敗した(16頁)。当時の一高は立身出世主義。細川氏は学問は真理探究、社会のためになすべきという固い信念を持っており、この学風に鼻持ちならなかった(29頁)。鈴木弼美(すけよし):経済成長は金の奴隷をつくり、金を第一にする偶像崇拝になると説いた。アベノミクスに踊る現代に通じる至言(116頁~)。2016/03/18
小鈴
11
「第3章『剣を収めよ』浅見仙作」(141-197)を読む。新潟生まれ、北海道へ渡り最後の居住地は札幌市手稲区琴似。浅見仙作は無教会キリスト教の農民伝道者。1941年に治安維持法違反で逮捕、懲役3年の実刑判決を受けたが「不当だ」と上告、1945年6月12日に逆転無罪判決。治安維持法の逆転判決は極めて珍しい。熱心な信仰心からキリスト再臨信仰が天皇制を批判していると逮捕されたものの、信仰の義を争う道を選択。治安維持法は二審制!だったが、大審院の裁判官が再臨信仰は天皇制批判には当たらないと判断した。2020/07/08