内容説明
高齢のヴィルヘルミーネを介護するために、ロシアからドイツにやってきた二十三歳のイェリザヴェータ。二人の人生には、第二次世界大戦の「爪痕」が生々しく遺されていた。ある日、一本の電話をきっかけに、その戦争の記憶がうごめきだす―。過去と現在を往還する、息詰まる心理劇。
著者等紹介
バロンスキー,エヴァ[バロンスキー,エヴァ] [Baronsky,Eva]
1968年生まれ。作家。インテリアデザイン、マーケティングを学び、フリーのグラフィックデザイナー、ジャーナリストなどとして活動。その後作家に転身し、2010年、初の小説Herr Mozart wacht aufをAufbau社から出版(フリードリヒ・ヘルダーリン賞奨励賞受賞)
松永美穂[マツナガミホ]
1958年生まれ。早稲田大学文学学術院教授。専攻はドイツ語圏の現代文学。東京大学大学院博士課程単位取得満期退学後、ドイツ学術交流会奨学生としてハンブルク大学に留学。B.シュリンク『朗読者』(新潮社、2000年、毎日出版文化賞特別賞受賞)のほか訳書多数(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
1 ~ 1件/全1件
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
はる
55
忌わしい第二次世界大戦の記憶。ドイツの小さな町で独り暮らしをする老女ヴィルヘルミーネと、寝たきりの彼女を介護するためにやって来たロシアの娘リザ。二人の関係は良好だったが、ある電話をきっかけに一変する…。介護するものとされるもの。二人が憎しみ合う姿は読んでいて苦しい。それぞれには抱える悲しみがあった。愛に飢えたリザと、愛を失ったヴィルヘルミーネ。ラストにようやく全て明かされるヴィルヘルミーネの過去と想いが、ただ哀しい。2018/03/23
ちえ
24
読友さん繋がり。戦争では女性や子供達が一番被害を受ける。苦しみは何十年たってもきっかけがあればパンドラの箱のように出て来る。同時に介護労働が外国人に頼る状況は、今の日本の介護の状況に繋がるし、身内が動けない高齢者の年金を使っているらしいこと、リザの母親が仕送りに頼る様子。それぞれの周りの状況は遠い国の問題ではない。あとがきの沖縄戦の事なども読み、深く考えさせられた。2018/04/24
そのとき
18
全てが鉛色だった。昨年「アンネの日記」を読んだ。先月「ベルリンは晴れているか」を読んだ。この2冊と同時期ベルリンでのアナザーストーリー。苦しい時代、追い詰められた人達がとった行動、極限で下した決断。生命か、尊厳か。こんな苦しいことがごろごろ起こっていたのだろう。なんてことだろう。そして時が流れてもなお、その歪みが人の血を介して現在までも流れ着いている。2019/06/23
星落秋風五丈原
13
ロシア人に酷い目にあわされたドイツ人とドイツ人に酷い目にあわされたロシア人の末裔が介護される側とする側で出逢う。本当は彼女達二人が憎まなければならないのは、お互いではなく戦争なのだ。戦争はこうやって終わった後も人を苦しめる。甥夫婦がヴィルヘルミーネに黙って年金を受け取っていたりイェリザヴェータのように海外から不法に人を雇わなければならない介護の人手不足など“少子高齢化日本でも同じ事が起こっている”と思い当たる問題が提起されている。他の登場人物は出てくるものの、二人を中心にした舞台劇にぴったりの人間ドラマ。2014/01/07
りつこ
11
内容云々よりも登場人物の感情表現があまりにも乱暴なのが読んでいて嫌だったなぁ。こんな介護人は嫌だー。彼女には彼女の背景があったとはいえ相手は身動きできない老人なのに…どうしてもそこが受け入れられなかった。何にしても暴力がまかり通る世界は嫌だとつくづく思った。2013/12/02