出版社内容情報
数々の賞を受賞し、ポストコロニアル作家としていま注目を集めるカリブ生まれ英国の作家の話題作。グローバル化が進み、人と文化が移動する現代の多民族性やディアスポラ(居場所の喪失)、内戦や暴力など、さまざまな生の痛みを描き、文化のあり方を問う。数種の文体の使い分けや構成上の工夫、思想的問題提起、推理小説的面白さなどの点で読者を引きつけずにおかないスケールの大きな、注目の一冊。待望の本邦初訳小説
内容説明
「いったいどんな場所に僕は来てしまったんでしょう」アフリカの内戦をのがれてきた男、ソロモンは、新しい友人に問いかける。家族も故郷も失くし、困難な旅を生きのびて、彼は、「はるかなる岸辺」、イングランドに辿りついた。新しい人生をはじめたいと思っていた。そう尋ねられ、途方に暮れるのは、中年のイギリス人女性、ドロシー。彼女もまた、さまざまな喪失を抱え、人生をやり直そうと思っていた。二人の間には、ソロモンに届けられた、「ここから出て行け」という村人からの憎しみの手紙の束がある。読者に届けられるのは、孤独な二人の現在の悲劇と、忘れてしまいたい過去。「なぜ」と読者は重たいこころで問うだろう。私たちと同じ小さな人間の、人間としての限界、そして苦いイギリスのいまと世界の痛みを、静かに描く、ポストコロニアル文学の傑作。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
くみこ
18
孤独な女性ドロシーと、祖国の内戦から逃れて来たアフリカの青年ソロモン。住人と夜警の立場で出会った二人の淡い友情に絡め、イギリスの内情が描かれます。ドロシーは礼節が失われていく故郷に馴染めず、イギリスにこそ安穏な生活あると信じたソロモンは、排他的な視線に戸惑います。人種や性別、世代も環境も異なる二人なのに、共に自分の居場所が定かではない。イングランドとアイルランドやスコットランドとの関係も含めて、今のイギリスを静かに教えてくれる、苦味の効いた作品でした。2019/01/07
壱萬参仟縁
18
表紙見返しによると、 ポスコロ文学。 2003年初出。 時々、本を取り出したものだった。 表紙もめくれ、頁には斑点ができて いたけれど、前に書き込んだメモを 読もうとした。以前は、覚えておきたい 箇所があると本からその文章を写すのが 習慣だったのだ(181頁)。 今では、読書メーターに書き写して いるのが習慣化した。 しかし、そろそろ辞め時かもしれない。 他の仕事をするべき時がやってきたのかも。 途中逢瀬が出てくるが、 それが中心ではない。 2014/06/16
Porco
15
イングランドへの移民を描いた小説。なかなか厳しい状況なんですね。2019/02/21
ハルト
1
ここは私の場所ではない。いったいどんな場所に僕は来てしまったんでしょう。彼らにとっての「はるかなる岸辺」。故郷にありながら居場所を喪失した女性と、内戦により故郷を喪失し遠くイギリスへと辿りついた男性と。居場所を求めて孤独を抱える二人の上に降りかかる、集団と個人の排他性がもたらす悲劇。静かに紡がれていく、二人のつらい過去。受け入れられないことへの痛み。悲しみが積もるように沁みる作品でした。とくに黒人男性の人生を思うとやるせない。女性の、自身ゆえとはいえ孤独がついには決壊し狂気に浸ってしまう姿も淋しく切ない。2012/01/26
100名山
0
読み始めてすぐに「ライ麦畑で捕まえて」を読んでいるような錯覚に陥りました。 違和感がないので翻訳がうまいといえます。 主な登場人物はイングランドの50代の白人女性とアフリカ出身の30代の黒人男性です。 生きるためにいろいろなことをしてきた男性と我こそはイングランドの良識として 生きてきた女性が人生で僅かに接点を持つ。そこから物語が始まります。 この本でイングランド、アイルランド、スコットランドの関係が少しでも分かればと思い 2012/02/10