出版社内容情報
原爆投下を多くの人々が肯定し、キノコ雲が高校の校章になるアメリカ。日本との核認識の大きな隔たりは何に起因するのか。教育での語り、映画やコミック・歌に潜む独自の核イメージ、軍と市民の距離、歴史的に隠されてきた被ばく被害……シカゴの大学で核倫理を教える著者が、アメリカの核認識を縦横無尽に論じる。
内容説明
「原爆はアメリカ市民の命を救った」という語り、放射能でパワーアップする映画やコミックの表象、流行歌に潜む独自の核イメージ…なぜアメリカでは、原爆が悪ではないのか?
目次
序章 核意識の齟齬―日本とアメリカ
第1章 アメリカのキノコ雲
第2章 原子力の様々な表象
第3章 原爆と正義をつなぐもの―軍隊
第4章 「核の平和利用」言説―反共としての宗教政策
第5章 ジェンダー化された原子力
第6章 隠されてきた被ばく―核実験・人体実験・核廃棄物
第7章 被ばくを歪める語り―なぜ被ばくを語りえないのか
著者等紹介
宮本ゆき[ミヤモトユキ]
広島県出身。シカゴ大学大学院で修士・博士号取得(宗教・哲学・政治倫理学)。デュポール大学准教授。被ばく被害と倫理に関する研究を行い、大学で「原爆論説」や「核の時代」などの講義を行っている(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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ばんだねいっぺい
38
原爆に対する日米の見方の違い。時間をかけた対話が必要だと感じた。しかし、学生にお金が行かないようにしてるのは軍へのリクルートのため?などと思った。シカゴ大学の核分裂を祝う祭りの七色の花火、リッチランド高校のキノコ雲の校章。複雑な気分。2021/07/23
サトシ@朝練ファイト
34
抑制的でかつ冷静な語りをするが鋭い切り込みを見せる著者は米デュポール大学准教授であり米国の大学事情もサラリと言ってのける。今後とも注視したい方だ。2020/09/27
松本直哉
32
あまりに素朴で楽観的な性善説。日本の原爆投下も欧州の塹壕戦も経験しなかった米国にとって、銃も核兵器も、神の賜物であり文明の進歩の所産であり、それを善用するも悪用するも人間次第らしい。こんな国が世界の警察官をもって任じている不幸を思う。千回以上の核実験や核施設周辺の汚染には目を背けてひたすら抑止力の有用性だけを説く。核廃絶をどんなに連呼しても届かないわけがよくわかる。米国の大学で教える被曝二世の著者の、日米の被曝(被爆)者が連帯して声を挙げようという提案。小さくてもそれが大事な一歩になるのかもしれない。2021/01/26
ネギっ子gen
24
原爆投下を多くの人々が肯定し、キノコ雲が高校の校章になるような国、アメリカ。日本との核認識の大きな隔たりは何に起因するのか?広島の地で生まれシカゴの大学で核倫理を教える著者が、教育での語り、映画やコミック・歌に潜む核イメージなどから米国の核認識を論じる書。<年月を重ねて、被爆者の方々が少なくなっていく今、これ以上誰も放射能障害で傷ついて欲しくない、という私個人の願いから、核廃絶、放射能障害根絶に向けて、もっと戦略的にアメリカのみならず、全ての核保有国とそれを支える国に響く語りとはどういうものか>を考察。⇒2021/03/28
Toska
20
米国に住みアメリカの学生に倫理学を教える日本人という稀有なポジションの著者が、日米間における核兵器観の齟齬にスポットを当てた労作。例えば被爆者の講演を聴いた場合、日本人であればすぐ反戦・反核のメッセージを受け取るのに対し、アメリカの学生は「過酷な体験を乗り越えたあなたをリスペクトします」といった感想に収斂させる場合が多いのだという。その背景にあるアメリカ独自の核イメージ、社会が共有する「語り」の分析は見事の一言に尽きる。2023/06/14