内容説明
“いのち”を生かすはずの宗教が、なぜ殺戮と抑圧を生むのか。イスラエル民族神話の成立からキリスト神話の成立へ。連続と断絶、継承と相剋の壮大なドラマのうちに、救済を語る宗教にはらまれた、転倒のメカニズムを探る。
目次
第1部 イスラエル民族神話の成立(「神話」としての五書;王国時代―預言者の活動とバビロン捕囚;民族宗教としてのユダヤ教の成立―民族アイデンティティの危機とその克服)
第2部 イスラエル民族神話の揺らぎ(ヘレニズムとユダイズム―セクト運動の誕生;マカバイ戦争とハスモン王朝―多様化するセクト運動;ローマ支配―民族意識の高揚と蔓延するセクト的価値観;後一世紀パレスティナの空気―尖鋭化するユダイズムへの問い)
第3部 イエスの活動と思想(「信仰のキリスト」と「歴史のイエス」;前史;イエスの活動と思想;死)
第4部 キリスト神話の成立と展開(キリスト派の成立;教会の発展;パウロ;ユダヤ民族意識の高揚と教会内部の対立;キリスト派のユダヤ教からの分離;キリスト教の反ユダヤ主義)
著者等紹介
上村静[ウエムラシズカ]
1966年生まれ。専攻、ユダヤ学・聖書学。1994年、ヘブライ大学に留学。ユダヤ学を専攻する。2000年、東京大学大学院人文社会系研究科宗教学宗教史学専攻満期退学。2005年、Ph.D.取得(ヘブライ大学)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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trazom
40
12年前の出版書だが名著だ。「幸せのための宗教が、なぜ平然と人を殺すのか」という問題意識の下に、聖書を丁寧に読み解き、キリスト教の成立史へのスリリングな考察が展開される。「民族主義」と「律法主義」によって、「義人」と「罪人」という二元論的人間観を生むユダヤ教に対し、イエスの活動は、それを無化する一元論だった筈だ。なのに、パウロが確立したキリスト教が、何故「救われる信者」と「滅びる非信者」という新たな二元論に陥ったのかが見事に解き明かされる。八木誠一、田川建三、上村静…この先生たちの聖書論は、本当に面白い。2020/02/16
彬
6
ユダヤ教の成立から、聖書に描かれるイエスを通して彼の思想を見いだし、彼の死後に生まれたキリスト教の変遷を見る。どちらも有名な宗教で在りながら捉えがたい印象だったのが、この本ではとても分かりやすく解説されていた。もちろん端折っている部分や筆者による解釈の違いなど(宗教なので)あるだろうけど、それでも一連の流れが分かったし、著者が見いだしたキリストがもしそうだったなら、すばらしいと思う。だから彼の死後の思想の歪み、キリスト教の独善、覇権主義には嫌気がさす。日本人に受け入れにくいのはこの要素が一因なんだろうなあ2011/05/01