内容説明
幼少時から抜き難いものとして意識の深い部分に刻印され、生家から期待された「天皇への接近」のためにエリートであろうとした太宰は、なぜ左翼活動に踏み込んだのか。伝説の左翼文芸誌『戦旗』を購読していた事実を示す資料の発見により、高校時代から社会の深刻な矛盾に向き合おうと苦悩した青年の姿が浮かび上がる。膨大な資料を調査し、従来にない視点から読み解く、作家として生きる道を見出すまでの太宰治の半生。
目次
第1章 津島家という規範―天皇と帝大(「天皇への距離」ということ;祖母イシの信仰と天皇崇拝 ほか)
第2章 生家への抵抗と反逆(文学への志向と模索;弘前高校での創作活動と『戦旗』の購読 ほか)
第3章 東京帝国大学生として(仏蘭西文学科への入学;左翼非合法活動への参加 ほか)
第4章 作家太宰治の誕生(作家としての決意;天皇の意味の模索)
著者等紹介
斉藤利彦[サイトウトシヒコ]
1953年生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。現在、学習院大学文学部教授。博士(教育学)。専攻は教育史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
Y2K☮
35
ある時期までの津島修治は、確かに家族の期待に応える優等生だった。でも仮面を被り続けて疲弊した彼は文学に救いを見出し、裕福な生まれに対する負い目と強権的な父への反発から共産主義的な活動に熱意を抱く。そこに天皇への愛憎を重ね、反体制的で「弱者の味方」たる太宰文学のルーツを探る。もし庶民に生まれていたら作家太宰治は存在しなかったかもしれない。当時の帝大仏文科はほぼ無試験で入れたなどの意外な発見も。天皇の人間性を愛し、束縛からの解放を望んだ思想は今の井上達夫に近いか。プロレタリア文学はいずれじっくり取り組みたい。2017/07/22
ちょん
21
興味をひかれて図書館から借りてきたが、あまりにも難解で挫折。もっと、太宰治本人のわかりやすいエピソードを知りたかった。残念。2014/08/04
青柳
5
太宰治の来歴に関する解説本という印象を受けました。生家、津島家の天皇への接近。津島家、父、祖母への抵抗。高校時代、東大時代での非合法左翼活動への接近などをクローズアップしながら、これらの出来事が太宰の内面にどのように影響を与えたのかということを解説しています。著者である斉藤先生の来歴から難解な解説を予想し、戦戦恐恐としながら読み進めていたのですが、思いのほかあっさりとした解説で安心しながら読むことが出来ました。人によって程度の差はあるかもしれませんが、太宰の解説本としては個人的におすすめです。