内容説明
司馬遼太郎の『坂の上の雲』を歴史家はどう読むか。祖国防衛戦争としての日露戦争観、「明るい明治、暗い昭和」、そして様々な史実との向き合い方…。国民的作家が自ら「事実に拘束されることが百パーセントにちかい」としつつ執筆したこの歴史小説のどこに注目すべきか。近年の史学界の研究成果も交えながら、冷静かつ多角的に論じる。
目次
第1章 『坂の上の雲』とは何か(日清戦争と台湾・朝鮮;日露戦争への道程;日露戦争―旅順攻略戦;日露戦争―日本海海戦;韓国併合―日露戦争の帰結)
第2章 青春物語としての『坂の上の雲』(秋山好古と陸戦;秋山真之と日本海海戦;正岡子規―壮絶なる闘病生活)
第3章 近現代史をどう見るか(なぜ、司馬史観を問うのか;明治維新の世界史的位置;日清・日露戦争をどう見るか;大正デモクラシーの歴史的意義;大東亜戦争とアジア太平洋戦争;司馬遼太郎の明治憲法・天皇観)
著者等紹介
中村政則[ナカムラマサノリ]
1935年、東京に生まれる。一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了。一橋大学経済学部教授、神奈川大学特任教授などを経て、一橋大学名誉教授(日本近現代史専攻)(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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KAZOO
109
司馬遼太郎さんの「坂の上の雲」を中心に司馬さんの歴史観を評論されています。私は保守的な人間ですが、さまざまな意見があってもいいと常々思っているので中村さんのような人がいて批判的な意見を開陳されるのにやぶさかではありません。また谷沢栄一さんのように賞賛論一色というのも面白いと感じます。私はこれを歴史と思わずに小説と思い読んでそこに自分の感心する部分や面白さがあったりすればいいと感じています。2018/05/18
おさむ
43
神田の古本まつりで購入。最近はというか、昔から司馬さんを批判する人は少ないので、ある意味貴重な論考です。史実にかなりの誤りがある点などを歴史家の立場から指摘しており、こうした歴史観があたかも史実として日本社会に浸透することへの警鐘を鳴らしています。しかし、今や司馬史観を悪用した自由主義史観なるものがまかり通る時代になってしまいました。つくづく歴史を見る上での複眼的視座の大切さを感じます。吉村昭さんが司馬遼太郎賞の受賞を拒否していたエピソードは初耳。両者の歴史に対するスタンスの違いがよく表れていますね。2017/11/08
キムチ
33
学生時代からほぼ一貫してファンであった司馬氏・・そして私の史観の基本だったかもしれない彼の考え。一考する手立てかもと一読。筆者は司馬氏とほぼ、同世代の空気を吸ってきた経済学者。国を挙げての司馬史観にあえての辛口批判とのコメントが面白かった。作品全て網羅する論評ではなく、「坂の上の雲」を基とした明治・大正・昭和へ至る「祖国を愛するが故の」史観を切ると銘打っている。従い、筆者の意思表示が明快かつ論理的、読み易く解り易い。 司馬氏信奉度100%と名指しする藤岡氏の論調を随所でバッサリしている点もなかなか。2014/01/06
金吾
31
『坂の上の雲』を題材に司馬遼太郎さんを批判している本です。それぞれの考えがあるので、興味深く読め、面白かったです。ただ小説と史実は異なるのは当たり前なのに、一つの部分(他の著書との読みあわせはしていないのではないかと思います。)を切り取り自分の考えを主張しているのは研究者としては如何なものかなと思いました。2023/05/17
くり坊
9
『空海の風景』という作品を書いた司馬遼太郎を、梅原猛が猛批判したのは有名な話だが、大前提として、司馬は「学者」ではなく「小説家」なので、彼の記しているのは「フィクション」である。そこに影響される人物が多いのは、吉川英治の人気を継承するとまで云われた希代の人気作家、その作品が日本の近現代史を舞台とした『坂の上の雲』だった訳で、そこに浅学さが見え隠れしても、あくまで小説家である司馬には、何のに責任も負うものではない…というのが、わたしの個人的意見である。外野は、いつでも騒がしいものである。2024/05/26