出版社内容情報
時代のなかで育まれた言語表現には,その時代を生きた人びとの世界認識が刻み込まれている.古代文学のさまざまなジャンルにわたって,その背後にひろがる世界像を追究してきた著者の論考を集成する.神話や和歌の表現を支える言葉の緻密な分析から,身体感覚のありよう,魂や心のはたらき,空間認識の広がり,などが剔出される.
目次
古代文学の想像力
1 古代人の感覚(視覚と嗅覚―ニホフとカから;魂と心と物の怪と ほか)
2 神話の秩序(古代の「言」と「音」;アマテラスの影 ほか)
3 拡張する時空(「鄙」の国守―越中国守大伴家持;家持の「歌日誌」―「族を喩せる歌」を中心に ほか)
4 国家の像と個の倫理(仏教説話の誕生;「愧ぢ」と「畏れ」の発見―景戒と憶良と ほか)
著者等紹介
多田一臣[タダカズオミ]
1949年生まれ。1975年東京大学大学院修士課程修了。博士(文学)。現在、東京大学大学院人文社会系研究科教授。専攻は日本古代文学、日本古代文化論(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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内島菫
14
日本語という言語を根底で支える、また逆に、日本語によって構築される世界像を意識的に文学史に取り込んだ論考群。ここにもミメーシスの主題が繰り返されている(本書には一言もミメーシスという言葉は出てこないが)。著者がこだわっている世界像は、普段なら自明のこととして無自覚になされている感覚や視点によって把握されているものだろう。それが本書の導きで古代の文学を読み解くことにより、現代からすれば少し異質ながらもどこか懐かしい古代人たちの立ち位置に立てる気がするという、とても密やかだが大切なものに触れることができる。2023/04/11