内容説明
潤沢な石油マネーで華やかな表玄関を構えるロシア。だがその裏で働く一五〇〇万人もの旧ソ連出身外国人不法就労者の存在を知る人は少ない。僅かの賃金、劣悪な条件のもとで建設や清掃などの重労働に従事する彼らからは、つねに警察官や雇い主がなけなしの金をしぼりとっていく。そればかりでなく、労働災害による傷病や事故死の危険も常時隣り合わせで、働きに出たまま行方知れずとなる外国人の数は月に数百人ともいわれる。そうしたかれらにさらに追い討ちをかける、スキンヘッド・グループによる襲撃も、あとを絶たない。一方でロシア社会は彼らの労働なしにはもはや成り立たなくなっており、ロシア市民たちもまた、彼らの上前をはねる生活に慣れてしまった。「虚栄の帝国」の知られざる舞台裏を、地域に密着した調査がえぐり出す。
目次
序章 ロシアを支える一五〇〇万人の「声なき民」
第1章 ロシアになだれ込む「黒い労働者」(帝国の崩壊で蘇るロシア;「黒い労働者」が担うロシアの重労働;プーチン政権の大ロシア主義;不法就労を生む法律の摩訶不思議)
第2章 生活の糧を求める貧困な隣人たち(タジク人―ロシア人よりも重宝される真面目な内装工事;アゼルバイジャン人―中国人が製造する偽ブランドの販売;アルメニア人―警察官と労働災害に怯えながらの建設工事;モルドヴァ人―午前四時からの過酷な清掃作業)
第3章 続出する「黒い労働者」の悲劇(暗い闇に消えた青年の捜索;殺人と傷害事件の頻発;自国民との溝を深める周辺国政府;外国人嫌いのスキンヘッドの台頭)
第4章 出稼ぎ労働者を活用するロシア人の思惑(民族別の労働意欲の特性;摘発を逃れる雇用主と警察官の暗躍;黒いブローカが下支えする闇の労働現場;ロシア人による集団的収奪のからくり)
終章 虚栄の帝国はどこに向かうのか
著者等紹介
中村逸郎[ナカムライツロウ]
1956年、島根県生まれ。学習院大学大学院政治学研究科博士後期課程単位取得退学。モスクワ国立大学、ロシア科学アカデミー「国家と法研究所」に留学。島根県立大学総合政策学部助教授を経て、筑波大学大学院人文社会科学研究科教授。政治学博士(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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