出版社内容情報
東南アジアでのフィールドワークを通じて、国家の束縛から離れた社会のあり方を希求してきた政治学・人類学の泰斗スコットが、日々の暮らしの中から社会を変えてゆく実践的アナキズムのエッセンスを軽妙洒脱に説き明かす。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
松本直哉
38
国家を否定しても革命を起こしても、結局また別の抑圧と搾取の権力を生むだけだ。必要なのはそんな大がかりなことではなくて、日々の生活の中で、階層秩序や規範性にとらわれないやり方で、相互的で互恵的で無償の生を営むこと。信号を廃止したらドライバーがより注意深く運転するようになって事故が減った事例、またヴィシー政権下のユダヤ人迫害の国是に逆らって、逃亡するユダヤ人を匿うフランスの田舎町の事例などからわかるのは、与えられた規則や法律の遵守よりも、今ここにいる人への気遣いと心配りが人間の尊厳を保証するのだということ。2020/12/13
ケイトKATE
37
私はアナキズム(アナーキズム)を誤解していた。アナキズムは無政府主義と訳され、左翼の過激思想と思い込んでいたが、アナキズムは権力から隷属されないことであり、本当の自由を得るための思想である。本書で中央集権的権力があらゆる分野に入り込むことが、社会の疲弊への原因だと著者ジェームズ・C.スコットは指摘している。アナキズムは一人ひとりが権力を飼い慣らし隷属しない手段である。グレーバーの著書でも書いたが、アナキズムは未来を生きるために必要である。 2022/05/18
おたま
30
ここで述べられている「アナキズム」はいわゆる「無政府主義」ではない。むしろシステムや計画、量的な評価等に対して「否」というあらゆる行動を指す。人間のもっている自律性や自発性を、あらゆる場で開花させようとする、そうした視点のこと。この本の叙述スタイルそのものが、すでにそうしたことの実践となっている。29の断章からなる文章には、体系や構築といったものはなく、それらの断章は呼応し合い、増幅し合っている。街路について、教育について、工場について、具体的に「否」の視点で見てみようとしている。 2021/08/13
月をみるもの
27
現代においてアナキストたらんと欲するのであれば、グレーバーとスコットを読まずにはいられない: 「かつて私の頭脳明噺な同僚が、一般に西洋における自由民主主義は、もっぱら富と収入の観点から上位20%を占める人びとの利益のために運営されていると分析した。彼によれば、この仕組みを円滑に維持する秘訣は、とりわけ選挙の時期に、収入分布における次の30%の人びとに、この最も豊かな20%を羨むよりも、最も貧しい50%の人びとを恐れるように仕向けることにある」2022/02/25
Yuma Usui
24
無政府主義ほど過激でないが権力に従順でない生きかたの有用性を説いた一冊。匿名の市井の民が如何に歴史に影響を与え、また現代を生きる私たちが如何に影響を与えることができるかについて語られている。吉田松陰の説く草莽崛起のマイルドなバージョンといった印象。国民が自分の望みを叶える為に政府と競合的な振る舞いを行うことで、結果的に両者に有益な状態になるイメージ。機械学習でいう敵対的生成ネットワークが想起されて興味深いものだった。2020/04/25