内容説明
ローマは一日にして成らず―。格言に引かれる未曾有の都市国家も、コンクリートなしにはありえなかった。人間社会の基盤を支えてきたその姿は、華麗というより木訥。本書は、そんな建築資材の視点より描かれた文明の物語である。新書『コンクリートが危ない』で現代社会に警鐘を鳴らした著者が書き下ろすライフワーク。
目次
第1章 すべての道はローマより発す―古代都市国家とコンクリート(火山灰が原料?;ローマ帝国を衰退させた公共事業 ほか)
第2章 二千年の闇をぬけて―近代文明とコンクリート(スミートンの着眼点;近代化をささえた鉄筋コンクリート ほか)
第3章 激動の時代のなかで―総力戦とコンクリート(帝国自動車国道;硫黄島の「防波堤」)
第4章 戦後の復興とともに―高度成長とコンクリート(戦後集合住宅私的変遷史;夢の超特急の影で)
第5章 シヴィル・エンジニアへ―現代日本とコンクリート(コンクリートから見た日本と西欧;土建屋とシヴィル・エンジニア ほか)
著者等紹介
小林一輔[コバヤシカズスケ]
1929年生まれ。東京大学名誉教授。専門は、コンクリート工学
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感想・レビュー
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アナクマ
40
2000年も前から人間社会を(文字どおり)基盤から支えたコンクリートという物質の技術史。終盤の技術者論も見どころ。◉「心のこもっ」ていない突貫工事の描写が寒々しい。水浸しコンクリ、無造作に束ねられた鉄筋、ゴミ入り橋脚(山陽新幹線)。◉老工学者の憂いは深く、官尊民卑の技術官僚、利益追求お家大事のゼネコン技術者、大学教授まで、その批判は手厳しい。「シヴィルエンジニアとしての見識や使命感、広い視野は消え失せ、仕事に埋没することが生き甲斐」になってしまっていると。ベルリンの壁の堅牢さとともに、肝に命じよう。2019/11/01
in medio tutissimus ibis.
4
セメント=石灰岩と粘土を高温で焼成して得られる微粉末。水と化学反応して固まる。モルタル=セメント+砂+水。コンクリート=セメント+砂+水+砕石を同時に練り混ぜ固めたもの。ウィキペディアを彷徨っても全然解らなかった事を冒頭で一発でわからせてきてこの本は本物だと思った。高度成長期に杜撰なコンサートが各所で作られてしまった問題については、文化や精神を持ち出すのはあまり的を射ておらず、発注者と施工者の意識の断絶が問題であり改善すべき所であったと思う。その意味でこの本の様にコンクリートの知識を広めることもその一助。2022/08/07
2n2n
3
何故、近現代の日本で劣悪なコンクリートが生まれ続けたのか? 何故、日本の土建業のパブリックイメージは諸外国に比べて悪いのか? これらの疑問にも答えた、コンクリートの文明史。「ものづくり大国日本」が聞いて呆れる、と感じてしまうことも。2012/07/09
ぼぉ
2
コンクリートの歴史と技術を知ることが出来る一冊。 技術に特化した本はたくさんあるものの両方を知ることで、 どのように進化していったかが分かる。 試行錯誤を繰り返しよりいいものを求めるのは昔も今も同じこと。過去の足取りを知ることでこれからを考えると理解が深まると思います。2018/04/24