内容説明
ローマ史上の画期とされる帝国の東西分裂とは、何だったのか。歴史を動かした文武の官僚たちを主人公に、ローマ帝国の解体過程を描き出す。膨大な研究史の洗い直しと緻密な史料分析をふまえて、古代史の大問題に取り組み、新しい歴史像の提示を試みる。
目次
第1章 問題の所在―ローマ帝国の東西分裂をめぐって
第2章 シュンマクス―「永遠の都」ローマ市と食糧供給
第3章 ルフィヌス―新しい「首都」コンスタンティノープル市の官僚の姿
第4章 ルキアノス―帝国東部宮廷における官僚の権力基盤
第5章 エウトロピオス―帝国東部宮廷における宦官権力の確立
第6章 スティリコ―帝国西部宮廷における「蛮族」の武官と皇帝家の論理
第7章 アラリック―イリュリクム道の分割と帝国の分裂
終章―ローマ帝国の東西分裂とは何か
著者等紹介
南雲泰輔[ナグモタイスケ]
山口大学人文学部講師。京都大学博士(文学)。著訳書:服部良久・南川高志・小山哲・金澤周作編『人文学への接近法西洋史を学ぶ』京都大学学術出版会(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
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MUNEKAZ
16
ローマ帝国の東西分裂を扱った研究書。ルフィヌス、エウトロピオス、スティリコといった東西の宮廷で活躍した官僚・宦官・武官らを軸に、行政機構の面から東西分裂が決定的となった点を探る。著者は天災と蛮族の侵入によりバルカン半島のイリュリクム地方に権力の真空地帯が生じ、そこを占領した西ゴート族長アラリックの支配を、東の宮廷が認めた395年ごろを東西分裂のポイントと重視する。新たな時代に向けて変容を続ける東側に対し、かつての栄光が忘れられず蛮族を取り込んだ新体制構築に失敗する西側の対比が鮮烈であった。2022/02/24
Caivs Marivs
0
帝国の東西分裂とは何か?何をもって東西分裂とするのか?について論じたもの。そこにあるのは、官僚制が充実し、中世の超大国への道を歩む東ローマと、古代のパトロネジにこだわり、かつ大国意識を捨てられず分裂への道をひた走る西ローマの差であった。筆者は、帝国の分裂を、宮廷の分裂でも、東西に皇帝が立たなくなったことでもなく、中間地帯であるイリュリアが西ゴート族に割譲された時を持って、分裂が決定的になったという。行政組織や心性だけではなく、勢力間の地理的な断絶に由来するとは、当然のようでいて意外性がある。2019/01/12