出版社内容情報
280万人の難民,1万2000人の行方不明者,300万個の地雷.いったいどうすれば,そこに住んでいる民族を追い出すことができるのか.消された町コザラツに長期滞在して,「民族浄化」の真相に迫る.悲劇は終っていない.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
羊の国のひつじ
7
民族浄化が起きたボスニアやクロアチアに取材に行き、被害者の体験を綴った本書。見えてきたのは第二次世界大戦時に虐殺された記憶を持つセルビア人と、虐殺しセルビア人からの報復を恐れるクロアチア・ボスニア人という構図。日本人の国連事務次長・明石康さんの中立に見える判断がサラエボでの反感を買ったというのは悲しかった。彼らにとっては中立などはなく、味方でないのなら敵なのだ…2017/04/04
テツ
3
リアルに起きた虐殺の前では現代社会に生きる我々が持つ薄っぺらいヒューマニズムなど何の役にも立たない。それでも民族浄化などという蛮行を、こどもが泣くような現実を何とかして変えていかなければならない。優しさや悲しさから生まれる力ではなく、現状に対する静かな怒りや憤り(勿論それの原動力は民族浄化を行った側に対する憎悪ではなくヒューマニズム的な何かでなくてはならないのだけれど)でなくては変えられないのかな。世界や人間の流れを帰るには大きな力と長い時間が必要だ。2013/12/29
Quijimna
2
ニュートラルかつ冷徹でいることは難しい。憎悪と虐殺が続いた現場に立ちながら。それでも著者は、静かな怒りを深いヒューマニズムとともに持ち続けることができている。それだけでも素晴らしい。★★★★☆2009/06/30
犬丸#9
0
★★★☆☆ 自分の人生と同時代的に発生したこの戦争に関し、知っておかなければならないという意識が図書館の棚の前で突然芽生えて手を出して読んだ一冊。 96年の本なので、その後に関しては当然触れておらず、紛争を総括するには役不足。だが、現地の空気はひしひしと感じられる。 こういう本は世の中に残し続けなければ行けないと思うのである。「ガンダムで紛争を無くそう」などというクソアニメを放映しているこの国ではなおさらのこと。2007/12/22
横丁の隠居
0
著者の取材の工程をつぶさにおって記録していく。確かにディテールを知らないと全く事実に近づけないという著者の判断は、この過酷な状況では正しいと思う。米国クリントン政権は「セルビアが悪い、クロアチアは正義」という割り切りで和平交渉を強制的に押し切ったというが、セルビア人の「中立を叫ぶ国連や明石代表」に対する反感は凄まじいというのも理解できる。結局は国土の二分割を強制したわけだが、米人がどう誤解していてもとりあえずの治安回復は歓迎すべきことなのかもしれない。つくづく日本は地理的に恵まれているのだと思う。2018/07/29