内容説明
舞台は、第二次大戦下、イングランド北東部の小さな港町―貨物船がUボートに撃沈されるのを見たチャスは、翌朝、砂浜で発信器らしきものを発見する。友人たちと興味半分で始めたスパイさがしは、しだいに深刻な事態に…。カーネギー賞受賞作『“機関銃要塞”の少年たち』のチャス・マッギルと幼なじみが十六歳になって登場。本邦初訳。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アナーキー靴下
69
第二次大戦下のイングランド、16歳の少年チャスは、友人たちを巻き込んで、ドイツのスパイ探しを始める。友人たちの反応からして、彼の行動は子供っぽい。読者としても、何故そこまでスパイを見つけたいのかいまいちわからないまま、社会的な階層が異なる世界をあちこち引っ張り回される。無分別な好奇心に。友人だけでなく、登場する多くの人物が彼に好意的なのは、納得できないまま大人になるな、という願いでもあるのかもしれない。心の奥底でスパイに見出していたものを、スパイに会わずして見つけることはできなかっただろう。犠牲なしには。2023/07/03
星落秋風五丈原
31
チャスは16歳になったが、相変わらずイギリスは戦争中。戦中となれば更に物資が不足している。フツーの女の子枠に収まりきらなかったオードリーは、学校に通うチャスより一足先にオトナの世界の仲間入り。「酒を飲んだりするんじゃないか」「チャスとどうにかなっちゃうのでは?」と特に母親が心配しているが、チャスのお相手はクラスメートのお嬢様、シーラだ。身分違いの恋というやつだがシーラは何かと積極的でお化粧してとんでもない場所に潜入捜査までする。世間知らずのお嬢様だけが持っている大胆さ故の行動だが結果は親を怒らせることに。2022/12/14
Cinejazz
20
池澤夏樹・春菜の父娘対談『ぜんぶ本の話』で評判の高かった児童文学です。第二次大戦下のイングランド北東部の小さな港町を舞台に、16才の少年(チャス・マッギル)と幼なじみの仲間たちが、ドイツのスパイ捜しに大人たち顔負けの大活躍を繰り広げるイギリス伝統の冒険小説です。登場する人物の一人ひとりの描写が、繊細かつ骨太に表現された格調ある物語となっており、大人にも読み応えのある作品でした。名翻訳に併せた宮崎駿の挿絵が際立っています。2021/04/30
佐島楓
19
イギリスの児童文学。はからずもまた戦争ものだった。泥のような澱んだ雰囲気が印象的。宮崎駿さんがざっくりとした挿絵を担当していらっしゃるが、おそらくこの作品が持つ冒険と少年の成長に惹かれた結果絵筆を取られたのだろう。自分だけではどうにもならない現実の只中、なかなかに苦しく、つらい話。2012/03/03
moonanddai
13
水深五尋(すいしんごひろ)というクラシカルなタイトルですが、大変出来の良いスパイ小説で、面白く読みました。図書館本ですが、置かれているのは「児童書」のコーナー…。基本スパイ小説ではあるのですが、戦時中の暗い世相、階級対立というか分割された社会、格差、偏見、そして主人公の最後の葛藤みたいなものが細やかに描かれて、これがいわゆる「戦時下」というものなのでしょう。子どもだけに読ませておくのはもったいない…W。ちなみに「水深五尋」とはシェイクスピアの「テンペスト」にある詩から取ったのこと。2019/11/21