出版社内容情報
核の大火による滅亡の危機をこえて,我々はいかなる世界を構想することができるか.想像力を駆使して世界モデルを構築することを文学の使命とする著者が「人間」の声の大きな唱和を求めて行った感動的な講演の記録.
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
eucalyptus
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1982年の大江健三郎さんの講演録集であるこの本の『核状況のカナリア理論』で、大江さんはアメリカの作家カート・ヴォネガット氏が1969年に「アメリカ物理学協会への講演」で話したことを紹介しています。《これ(芸術の有効性とは何かということ)について私が抱くことのできる、もっとも積極的な考えは、芸術の「炭鉱のカナリア」理論と私が呼ぶものです。この理論が示すのは、芸術家たちが社会にとって有効であるならば、その理由はかれらがきわめて感じやすい者たちだということです。続く2025/08/06
eucalyptus
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8つ目の第一回日本記号学会記念講演『フィクションの悲しみ』について。この中で大江さんは、駅で足を踏み合う2人の男の話と駅のフォームで喧嘩をする2人の男の話をそれぞれ「フィクションの悲しみI」、「フィクションの悲しみⅡ」として示した上で、次のように述べています。「これらのフィクションはつまらない。どちらのプランも文学作品にはならない。それではなぜ、これらが作品にならないのだろうか?それには新しい小説論のサイドから見れば、二つ原因があるだろうと思うのです。続く2025/07/12
eucalyptus
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一つ目の講演録は『核の大火と「人間」の声』。京大の法学政治学ゼミナール大会での、若い人へ向けての講演です。「高橋さん(高橋和巳)のように大きい状況を正面から書くという仕方の若い作家がいなくなった。もっぱら小さな状況を書くのみの作家が多くなってきた。それも小さな状況から書きすすめていって大きい状況に風穴をあける、大きい窓をあけるという作風の作家がいるかというと、そうではない。小さな状況に始まって、小さな状況に終るという文学のつくりかたに、現代日本文学の全体が疑問を感じていない、そのように見えるのであります」2025/07/05