感想・レビュー
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ヴェネツィア
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塚本邦雄の第18歌集。時に歌人71歳。第16歌集にも『不變律』のタイトルが付されていたが、ここにきても韻律への信頼と信仰は揺るぐことがないのだろう。ただ、やはりそこはかとなく老境の影は忍び寄っていることも否めない。かつてのほとばしるような情熱や、華麗に駆使されるメタファーはここには見られない。選び取られた言葉もまた平易なものが多い。そうはいっても、歌がこうした黄金の韻律で歌われるとき、そこにはまぎれもなく塚本の世界が立ち現れ、煌めき(ややくすみを帯びたそれだろうか)が歌集の随所に明滅するのである。2018/02/18