内容説明
484日の海上漂流を強いられた督乗丸、幾組もの漂着者をうけ入れた絶海の孤島・鳥島、日本人として初めてアメリカへ渡った永住丸…。江戸時代の漂流をめぐって、それぞれの当事者たちの苦難と驚きにみちた冒険と体験を精緻にあとづけ、鎖国下において実際に〈異郷〉の土地をふんだ人々、“世界を見てしまった男たち”の行動と認識のあり方を探るノンフィクション。
目次
督乗丸の謎―海上漂流484日
無人島物語―ある島の伝記
日本人最初の世界一周―皇帝とともに気球を見る
はじめてのアメリカ―変らぬものは心なり
韃靼漂流記―万里の長城を越えて
「英国市民」力松の孤独―国際性の代償
中国を見た人々―漂流の帰途で
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
てつ
28
読後しばし呆然。いわゆる日本人の海を越えた漂流物語とその後の後日談なのだが、江戸時代は漂流民にはきつい扱いを受けたという思い込みが、実は刷り込みによるもので、必ずしもそうではなかったことに気づく。きちんとした実証に基づくルポ。大黒屋光太夫は有名だが、あとは吉村昭の名作「漂流」を俯瞰する名著だと思う。私も古本屋でみつけたバーコードなしの本だが図書館とかで見つけたら是非手に取って欲しい一冊。2023/05/05
かば
14
鎖国体制の敷かれた江戸時代、日本人が海外と触れる機会は限られていた。世界への正式な窓口は出島に限定されていたわけだが、漂流民に関しては話が別である。意図せず域外に誤配され、アメリカやロシアなどの船に助けられたり、あるいは無人島に漂着した彼らの歩んだ道のりが描かれている。膨大な資料に裏付けられた記録としても非常に興味深いが、単なる記録ではなく物語のように読者を惹き込む魅力がこの本にはある。2020/07/18
月をみるもの
12
幕府の海禁政策の下、海難事故によって自分の意思とは関係なく、世界を『見てしまった』漂流者たち。数多くの記録が残されているが、そのどれもが聞きとりを行なった者たちの関心の偏りや、(帰国後に処罰を受けまいとする)漂流者たちの意図的な情報秘匿によって歪められている。著者は徹底的に一次資料を渉猟することで、こうした歪みやバイアスを可能な限りとりのぞき、漂流者たちの経験を客観的に再現しようと試みる。たとえどんなに特異であろうと、個人が生きる範囲は片隅でしかないが、その片隅がひとつらなりとなったのが「世界」なのだ。2017/08/20
Akito Yoshiue
8
これすごく面白い。もっと早く読みたかった‥。2020/12/08
Kawai Hideki
8
鎖国された江戸時代、はからずも漂流をきっかけに世界を見てしまった男たちの記録。484日間も太平洋を漂流した「督乗丸」。時を超えて様々な経路から多くの人が漂着した不思議な無人島「鳥島」。流れ着いた先のロシアに帰化したり、帰国しようとしたが打ち払われイギリス人になる決意をした者たちの孤独。当時スペイン領だったカリフォルニアに流れ着きアヘン戦争直後の中国を見て帰国した漂流者達がかたくなに守ろうとした秘密…など。過酷な運命に翻弄されつつ、死んでいった仲間の遺志を受け継ぎ、希望を捨てず生き延びた男たちの魂に感動。2013/06/27