内容説明
中国の、ありとあらゆる小説のなかで、最も痛快で、最も人気のある小説『水滸伝』、―これが、海をわたって日本へやってきたのは、江戸時代の初めである。この『水滸伝』を、おもしろい話が大好物の日本人たちが、どう受け入れ、どう楽しみ、どう消化吸収したか。その、三百数十年の歴史を追っかけてみたのがこの本である。
目次
第1部 江戸時代(川柳水滸伝;『水滸伝』がやってきた;唐話学習の流行;4つの段階―原書、和刻、翻訳、翻案;岡島冠山と和刻本『忠義水滸伝』;『水滸伝』の辞書;『通俗忠義水滸伝』;『水滸伝』の絵本;中国白話小説と日本文学;『水滸伝』影響下の江戸の小説;曲亭馬琴)
第2部 明治以降(芥川龍之介と『水滸伝』;明治の『水滸伝』概況;旧訳の再刊;明治期の注釈と研究;『めさまし草』の共同研究;明治の翻訳;大正・昭和『水滸伝』概況;龍城・露伴の偉業;大正・昭和〈戦前〉の翻訳;戦後の両巨峰;その他の戦後の翻訳)
日本における『水滸伝』関係年表
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ピオリーヌ
9
平成3年の刊。この四年前、昭和62年に刊行された『水滸伝の世界』(こちらは現在読み始めたところ)を書いた際に取り残されてしまったテーマに、新たに付け足して書かれた内容。水滸伝が江戸時代のはじめに日本にやって来てからの、受容の歴史が分かりやすく描かれる。日本人の『水滸伝』を読む力が高いレヴェルに達した時期は従来三度あり、18世紀前半の岡島冠山、岡白駒、陶山南濤の功績。大正時代の平岡龍城、幸田露伴の大業績。戦後の吉川幸次郎、駒田信二の時代。この7人の仕事の能力・業績は本場の中国人に劣るものではない。2024/11/26
kenitirokikuti
6
図書館にて。ちくま文庫にもなっているが、現在品切れ。吉川・横山・北方のオレ水滸伝を含まない、底本に基づいた「水滸伝」翻訳の歴史を扱う(もっとも、江戸時代のなになに水滸伝のたぐいは翻案ですらないのが多数だそうな)。水滸伝は中国語で読むと名文だそうで、フランスのユゴーみたいなもんかしら? 筋だけ追うと冗長なとこもあるし、部分的な出来不出来も多数、と▲『水滸伝』、江戸時代前半には徂徠の蘐園などで上級向けの演習に使われたりしたそうな。大衆的になるのは後半。2020/08/18
淡雪
1
水滸伝が日本に伝わった江戸時代初期から現代までの水滸研究・翻訳の概説。本来固い本のはずだが、講談のようなリズムでどんどん読める。吉川幸次郎訳の問題点をここまで明確に指摘することはさぞ勇気がいったのではないか。あとがきで、御母堂の介護で会議に出席できないことが原因で大学をやめさせられたことにふれているが、いくら当時は介護休暇制度がなかったとはいえ、ひどい話だと思った。