内容説明
12歳の誕生日をすぎてまもなく、ぼくはいつもしあわせな気分でいるようになった…脳内の化学物質によって感情を左右されてしまうことの意味を探る表題作をはじめ、仮想ボールを使って量子サッカーに興ずる人々と未来社会を描く、ローカス賞受賞作「ボーダー・ガード」、事故に遭遇して脳だけが助かった夫を復活させようと妻が必死で努力する「適切な愛」など、本邦初訳三篇を含む九篇を収録する日本版オリジナル短篇集。
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
223
SFを読む時には、自分の世界観が大きく揺さぶられることを期待する。イーガンは初読だが、残念ながらそうした期待を十分に満たすものではなかった。『しあわせの理由』は、「これがイーガン」なのか、「こういうイーガンもある」のか解らないのだが。いずれの短篇も近未来を舞台に描くが、テクノロジーの上からはまだ実現されておらず、その限りではSF的なのだが、物語の本質においては、むしろ現代社会と人間の問題を描く手段なのではないかと思われる。個々の世界は細部まで緻密に描かれてはいるが、SFに感じる特有の「ふるえ」がないのだ。2014/04/07
Aya Murakami
105
ehonで近所の本屋に取り寄せてもらった本 ワームホールと量子サッカーの意味や概念は理解が追い付かなかった…。なんかよくわからん凄そうなSF装置くらいに理解。 ボーダー・ガードはなんだかスマホにとり残されたガラケー世代の私に刺さる。ガラケーからスマホへの移行が技術の進歩なように死から不死への移行も技術の進歩で明るい未来であってもいいはず。 血をわけた姉妹にでてくるバイオハザードの過程はまんま今のコロナ。そういえばコロナにも遺伝かは不明でありながらファクターxなるものが…。2022/07/02
やいっち
74
最先端の科学の知見を前提の日本版オリジナル短篇集。イーガン作品は、「白熱光」以来の二冊目。この短編集では、量子サッカーに絡む作品がある。 量子コンピュータもだが、テレボーテーションも実現されてしまった。サイエンスはまさに日進月歩。 2022/04/29
Aster
74
2020年度一発目!(読んでる間に年越しましたが…)そして初イーガンでした。SFと哲学が1:1で混ざっている。イーガンを理解したとは到底言えませんが、この小説はディストピア的思想を考え抜いた上で受け入れるものが多いと感じた。主人公はキャラが立っており一人称で語られるのもあって、内的世界の負の面に対するドラマチックな解答を読者は期待してしまうが、徹底して人間的であり、不条理こそが本質だと言わんばかり(小説内ではその不条理も認めてしまう)。現実の人間に劇的な展開を求めるのは酷だ。小説では無いのだから。2020/01/06
催涙雨
68
文章として一番印象に残ったのは「ボーダー・ガード」の「生の価値は、つねにすべてが生そのものの中にある─それがやがて失われるからでも、それがはかないからでもなくて。」という一節。こんなところに関心を見出す読者もそう多くはないと思うのだが、失われることを前提に物事の価値基準を設けようとする、何を残(遺)すかを生の本質としたがるような傾向や感情の働きが嫌いなので、異様に共鳴した。だからこの「ボーダー・ガード」という作品とそのテーマも(最初の量子サッカーこそイメージが湧かなくて苦労したが)とても好きだ。内容的にも2019/02/27