内容説明
過ぎ去った時間を越え、不意に意識の深層を揺さぶってやまないイメージの数々。自らの生と世界が濃密に融け合った珠玉の時を、現在に呼び戻しながら描く自伝的小説。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
市太郎
59
「この本に呼ばれた」そう言う以外にない出会うべくして出会った本という気がした。著者の戦中戦後の過去を断片的に回想しながら現況の心象と照らし合わせて絡めていく手腕は見事だ。「人とは何か」と言う根源的な問いに深く踏み込もうとする姿勢。エッセイ風ながら、一断片、一断片は緻密に構成されていて時間と意識との不確かさを研ぎ澄まされた文章で描き切ろうという姿勢。文学とは本来こういうものだな、と妙に納得してしまった。作者は確実に死を意識している。ゴーストというものの存在感が自分の中で現実、幻想を超えて圧倒的なのだろう。2014/12/30