内容説明
『私はあの子のことを、よくわかってやろうとしませんでした。…中也が詩を作るのに反対しながら、私は一方でお茶にばかり熱中していたんです。』明治四十年、医者の長男として山口県湯田温泉に生まれ、生涯仕事に就くことなく三十歳で夭逝した詩人の姿を九十四歳になった母が悔恨と愛惜の情を込めて話す。中也を知る必須の資料であり、美しい感動を伝える書。
目次
1 雪の賦
2 頑是ない歌
3 少年時
4 朝の歌
5 夕照
6 月の光
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
マリリン
16
諦めていたものの、ようやく手にすることができた本。中也の生い立ちや当時斬新的であったのではと思うような家庭環境、今まで知らなかった波乱に満ちた生涯等多くの事を知った。中也にとって雪は抗う事の出来ない宿命であり、涙が昇華し結晶になって降ってきたものだろうか。「Ⅵ・月の光」最後の言葉が印象的だった。中也の末弟、拾郎氏がハーモニカを吹く姿が脳裏をよぎる。2018/05/10
amanon
3
詩人は…というか中也という人は面倒臭い人だったんだな…と痛感(笑)。彼が生涯職に就かず、親の脛を齧っていたことは知っていたが、それが母親の口を通して語られると独特の切実さを帯びる。また男兄弟の中で育った者として、兄弟関係に関するエピソードは、何かと身につまされることしきり。長男というのは、かくも強権的に振舞いたがるものだな…と。それから中也の両親が仮に中也の文学志向に理解を示していたら、どうなっていたのだろう…と考えてしまった。後印象的だったのが、中也の未亡人孝子さんとフクさんとのエピソード。心和む。2020/08/05
エリザベス
1
中也が生きていた頃は、「あれは肝焼き息子だ」という評判だったが、死後「死んで孝行なさいましたな」といわれるようになった、とこの本の中にある。母親のフクさんは、「そんなに詩が好きなら、中也を応援してやればよかった」といわれるが、そうだったら果たしてあんな詩が生まれていたのかと考える。2021/09/21