内容説明
腕は確かだが、無愛想で一風変わった中年の町医者、勝呂。彼には、大学病院の研究生時代、外国人捕虜の生体解剖実験に関わった、忌まわしい過去があった。病院内での権力闘争と戦争を口実に、生きたままの人間を解剖したのだ。この前代未聞の事件を起こした人々の苦悩を淡淡と綴った本書は、あらためて人間の罪責意識を深く、鮮烈に問いかける衝撃の名作である。解説のほか、本書の内容がすぐにわかる「あらすじ」つき。
著者等紹介
遠藤周作[エンドウシュウサク]
1923年東京生まれ。慶応大学仏文科卒業。リヨン大学に留学。1955年『白い人』で第三十三回芥川賞を受賞。1966年『沈黙』で第二回谷崎潤一郎賞受賞他、数多くの文学賞を受賞。96年永眠
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感想・レビュー
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優希
116
ズン、とくる暗さと重さ。外国人捕虜を生きたまま解剖するという極限的な異常な状況が胸に突き刺さります。淡々とした語り口だからこそ追い詰められるような罪悪の意識に襲われました。戦争を知らなくても響いてくる衝撃的な問いかけ。本当に戦時中に行われていたという恐ろしさを信じるのが辛いところです。フィクションながら事実にもとづいているからこそ、考えなければならないことの多い名作だと思いました。2016/07/14
aquamarine
85
そういう時代だった。そう言われてしまえばそうなのかもしれない。上から落ちてきた一滴の毒薬を、意思の力で無効にできる人間がどれだけいるのだろう。毒薬が落ちてきたことすら知らずにそれに染まってしまったのが、日本人という国民性ゆえだと思いたくはない。戦争で敵を倒すこと。あるいは医療の進歩のために実験をすること。彼らの思う罪とはなんだっただろう。治験の大事さも私は身をもって知っている。でも、それはこんな風に起こっていいことではないはずだ。海はまるで心を映すように、見るものによってその色を変えていく。2018/09/24
マエダ
75
”病院で死なんやつは毎晩、空襲で死ぬんや”みんな死んで行く時代の医者たちの葛藤や業をここまで書けるのは流石。2018/12/06
さくらさくら
64
やっと読み終わった。読みやすいし、読み出せばサクサク進む、面白いと思う。でもなかなか読もうと思えなかった。 戦時中の九大生体解剖事件をモデルにした話で、それに参加した人たちの事件に関わる迄の人生や心情を丁寧に書いてあり、戦後すぐの日本に人を殺した人が身近に普通にいる状況に『私』は、気付き戸惑う。 正直な気持ちを書くと、私はこの小説が嫌い。なぜなら、空襲や原爆で一般人が沢山死んだ。しかし日本人は残虐な行為をしたから仕方がない。と教わった日本史の授業を思い出したから。作者の意図は違うと思うがどうもね…。 2018/12/12
優希
60
重く恐ろしい作品だと思います。外国人捕虜を生きたまま人体実験として生きたまま解剖する。この忌まわしい事件を淡々と紡ぐからこそ刺さるものがありますね。罪の意識に深く切り込んだからこそ感じる衝撃。名作です。2022/07/13