出版社内容情報
在原業平とおぼしき貴公子を主人公とするこの物語は,彼の元服から終焉までの一代記風の構成をとる.権力とは別次元の価値体系に生きる男,后・斎宮から田舎女・召使との恋愛,報われることを期待しない女の愛,うるわしい友情,主従の厚い情義など,ここにはそれまでの王朝文学の思いも及ばなかった愛情の諸相が生き生きと描かれる.
内容説明
在原業平とおぼしき貴公子を主人公とするこの物語は、彼の元服から終焉までの一代記風の構成をとる。権力とは別次元の価値体系に生きる男、后・斎宮から田舎女・召使との恋愛、報われることを期待しない女の愛、麗しい友情、主従の厚い情義など、ここにはそれまでの王朝文学の思いも及ばなかった愛情の諸相が生き生きと描かれる。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
ヴェネツィア
266
光源氏に先行する「みやび」な物語。紫式部も清少納言も私たちの読者仲間だ。ゆるやかな構成だが、基本的にはむかし男の「うひかうぶり」から、彼が死期を悟るまでを描く。第1段の「うひかうぶり」は、元服か初爵かと解釈が分かれるが、いずれにしても青年になったばかりという年齢だろう。そして、この早熟にして激しい「みやび」が全段にわたって賞賛されているのだ。心魅かれるのは、やはり二条后高子とのくだり(第3段~第6段。後段でもしばしば回顧される)と、第23段の名高い筒井筒だろう。貴種流離譚にして王朝の雅の原型がここにある。2013/06/05
新地学@児童書病発動中
104
やや難解で読み進めるのに苦労した。この岩波文庫版は、古語の注釈がないので、不親切な作りと言えるかもしれない。それでも歌の部分はかなり理解できたと思う。何とも雅で、哀愁を感じる物語が多く、読んでいてとしみじみとした気持ちになることが多かった。昔に書かれた物語ながら、現代に通じるところがある。人を想う気持ちは、性別や年齢、身分を超えて、どんな人の心の中にも潜んでいるからだ。その意味で、ここに出てくる「をとこ」は、私達の感情の代弁者と言えるかもしれない。2017/11/01
しゅてふぁん
47
再読。春に読むと桜の歌に惹かれるはずなのに、今は最後の歌が心に刺ささります。『つひにゆく 道とはかねて ききしかど きのう今日とは 思はざりしを』2020/03/31
しゅてふぁん
30
伊勢物語を原文のみで。細かいことは気にせず、雰囲気と余韻を楽しむ!この作品を写本で読めたらな、と更なる高みを目指…せるのか?(^^; 2018/01/25
syaori
23
王朝の雅に触れることができる一冊です。短い章段に分かれているので手に取りやすいです。やはり文量がまとまっているもののほうが印象深く、「夢かうつつか寝てか覚めてか」分からない、伊勢斎宮との一夜の幻想的な交流を描く段、惟喬親王と「狩くらし」て「たなばたつめに宿からむ」と歌う段に見るのびのびとした歌のやりとり、出家した惟喬親王を尋ねて「夢かとぞ思ふ思いきや」と歌う段は毎回心に残ります。それにしても田舎者としては、「雅び」と「鄙び」を対比する段を読むとき、ついつい鄙びたほうの肩をもってしまいます。台無しです。2016/04/14