内容説明
これは「わたしのもの」ではなかったのだろうか。調査地でのある出来事から、私的所有の感覚がゆらぐ経験をした著者は、所有への違和感を抱きつつエチオピアの農村へ向かう。畑を耕す牛、畑になる穀物、台所道具、生活する人々など、ミクロなものに目を向けて調査していくなかで見えてきたものとは? 作物は頻繁に分配され、持てる人から貧しい人に与えられる。土地を所有することと利用することの関係。国家による「土地」のコントロール。様々な角度から私的所有をめぐる謎を掘り下げていく。気鋭の文化人類学者による鮮烈なデビュー作。
目次
はじめに──「わたしのもの」のゆらぎ
凡例
序論
第1章 所有と分配の人類学
1 「土地所有」という問い──制度から交渉へ
2 所有と分配の人類学
3 制度・権利・交渉──「所有」を問いなおす視座
4 本書の構成
第2章 多民族化する農村社会
1 コーヒーの花咲く森で──ゴンマ地方北部・コンバ村
2 多民族農村社会の「民族」という現象
3 本書の主人公たち
4 複合社会のモノグラフをめざして
第I部 富をめぐる攻防
第3章 土地から生み出される富のゆくえ
1 乞われる食べ物
2 農民の分配行動──収穫後の分配と日常的な分配
3 分配のジレンマ
第4章 富を動かす「おそれ」の力
1 望まれない豊かさ
2 「豊かさ」へのまなざし
3 親族からの妬みの圧力
4 「よそ者」という存在
5 異民族の流入と呪術の力
第5章 分配の相互行為
1 物乞いの交渉術
2 「分け与える」を回避する
3 「売却」と「分配」のはざまで
4 モノと社会関係を位置づけあう
第6章 所有と分配の力学
1 分配へと導く力──交渉される互酬性
2 富をめぐる感情の相互行為
第II部 行為としての所有
第7章 土地の「利用」が「所有」をつくる
1 資源利用からみる土地所有
2 「土地」という資源の多様性──畑地・放牧地・屋敷地
3 利用行為が支える所有の排他性
第8章 選ばれる分配関係
1 畑をもつ者・牛をもつ者・耕す者
2 コーヒー林をもつ者・借りる者・摘みとる者
第9章 せめぎあう所有と分配
1 土地争いの調停と解決の手続き
2 資源配分をめぐる争い
3 所有の規則性をめぐるふたつのレベル
4 行為としての所有
第III部 歴史が生み出す場の力
第10章 国家の所有と対峙する
1 エチオピア帝国への編入
2 革命までの道のり
3 農業の社会主義化と「国民」の創出
4 「社会主義」という夢の終焉
第11章 国家の記憶と空間の再構築
1 土地に刻まれた歴史
2 ある農民の生きた土地
3 国家の法を争う
4 「道」の記憶と「商品」の生成
第12章 歴史の力
1 権威の多元化としての国家
2 モノと行為を導く場の力
結論
第13章 所有を支える力学
1 多元的権威社会の所有論
2 モノ・人・場の力学──行為形式の配置と再配置
3 「私的所有」を相対化する
注
おわりに
文庫版あとがき
解説 「耕し」の思想へ 松村圭一郎の所有論(鷲田清一)
参考文献
事項索引
人名・地名索引
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
逆丸カツハ
Nさん
こじこ