講談社選書メチエ<br> ポスト戦後日本の知的状況

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講談社選書メチエ
ポスト戦後日本の知的状況

  • 著者名:木庭顕【著】
  • 価格 ¥2,365(本体¥2,150)
  • 講談社(2024/03発売)
  • ポイント 21pt (実際に付与されるポイントはご注文内容確認画面でご確認下さい)
  • ISBN:9784065352342

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内容説明

本書は、前著『クリティック再建のために』(講談社選書メチエ)の「姉妹篇」であるとともに「日本篇」と言えるものです。
「クリティック」とは何か?――その問いに答える前著は、他方で現代日本におけるクリティックの不在という事実を突きつけてきました。本書は、その点にフォーカスを定め、「現代の日本において何故クリティックが定着しないのか」という問題を集中的に扱います。取り上げられるのは1900年前後からの日本の「知的状況」です。ただし、現実との関わりを抜きには不可能な「クリティック」の不在をテーマとする以上、日本がたどってきたここ100年余の歴史を無視することはできません。それゆえ、著者の言葉を借りれば、「本書の内容は「思想史」でもインテレクチュアル・ヒストリーでもない。知的階層ないし擬似知的階層の知的活動のうちのクリティックのみを追跡する」ことになります。
ここで分析される対象は、「知的階層の言語行為」すべてです。それを分析することは、必然的に「知的階層の(欠落を含めた)あり方」をも扱うことになります。つまり、「知的階層を構成すべき人々の言語行為全体」が問題とされ、その結果、「狭い意味の学術」の世界の外で形成された言論も取り上げられることになります。
本書の「結」で、著者はこう言います。「戦後期に課題として発見された地中深くの問題を解明しそのメカニズムを解体する方途を探るためのクリティックの構築が挫折し、そしてその結果今ではこの課題に立ち向かうための条件、つまり立ち向かう資質を潜在的に有する階層ないしこれを育てる環境それ自体、もまた失われてしまった」。
この「失敗」は著者自身も当事者の一人にほかなりません。それゆえ、著者はこう言うのです。「なるほど私はバトンを受け取り先へ渡すことには失敗した。ブレイク・スルーを担う極小の一点へ、私の仕事が結び付くものではない。しかし、責任の中には必ず、失敗について報告し申し送る、とりわけ、何故失敗に終わったか、失敗の結果どういう状況が後へ残っているのか、について考察を遺しておく、ということがある」。
本書は、まさにこの言葉を実践したものです。これは「失敗」の研究であるとともに、この国がたどってきた道程の記録でもあります。好むと好まざるとにかかわらず、未来はここから歩まなければならない。しかし、著者が言うように「本書が最も悲観的に見る部分にこそ希望があることも事実である」ことを、ぜひ多くのかたに感じていただきたい。その願いとともに、本書をお届けいたします。

[本書の内容]
第I章 与次郎
第II章 戦前期(一八九五―一九四五年)
第III章 戦後期(一九四五―七〇年)
第IV章 ポスト戦後期I(一九七〇―九五年)
第V章 ポスト戦後期II(一九九五―二〇二〇年)

目次

はしがき

1 本書が設定する問題
2 この問題設定の個人的な動機
3 探究の性質、その限界
4 時代区分
5 アプローチ
6 個人的な系譜
第I章 与次郎
はじめに
1 与次郎の知的資質
2 この知的資質をもたらす要因
3 与次郎とクリティック
4 与次郎の射程――サンクロニクな平面
第II章 戦前期(一八九五―一九四五年)
はじめに
1 那美さんの夫
2 与次郎の先駆者
3 与次郎世代
4 一九一〇年代の信用状況
5 一九一〇年代の知的状況
6 一九一〇年代の与次郎――浮出の諸相
7 一九一〇年代の与次郎――内向もしくは浮出の遷延
8 一九二〇年代以降の信用の状況
9 新しい路線の国内制覇
10 一九二〇年代以降の知的状況――組織化の進展
11 一九二〇年代以降の知的状況――思考の形態 その一
12 一九二〇年代以降の知的状況――思考の形態 その二
13 一九二〇年代以降の知的状況――思考の形態 その三
14 一九二〇年代以降の知的状況――思考の形態 その四
15 一九二〇年代以降の知的状況――まとめ
第III章 戦後期(一九四五―七〇年)
はじめに
1 戦後期の信用状況
2 一個の原点
3 原点においてクリティックが直面した問題
4 市民社会の構築
5 実証主義の動向
6 戦後日本のマルクス主義とクリティック不全の間の関係
7 戦後「アジア主義」の両義性
第IV章 ポスト戦後期I(一九七〇―九五年)
はじめに
1 PPWにおける信用の状況
2 大学の状況
3 潜在的エネルギーの蓄積
4 クリティック解消の快感
5 実証主義批判の萌芽とその混乱
6 解体の主要な一撃
7 実証主義派生流の迷い込み
8 歯止めの不在
第V章 ポスト戦後期II(一九九五―二〇二〇年)
はじめに
1 信用の状況
2 大学の状況
3 壊滅を前にして
4 イデオローグから取り巻きへ
5 土塁の構造的な弱さ
6 クリティック牙城の窮乏化
7 新しい動向へのすり寄り
8 基幹クリティックの風化
9 ニッチへのランドマーク
10 ニッチへの投機、その代表的ジャンル
11 一元的投機目標希求の屈折
12 苛立ちの屈折
13 二〇二〇年に見える知的風景


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おわりに

感想・レビュー

※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。

フクロウ

3
経済信用と政治の成立、さらに知的階層の成立は相互に影響関係にある。従って、理想の社会を描くには、経済、政治、学問(特に文学や法学)のそれぞれのどこをどうすればよくなる、ということを、失敗から学ぶ(?)「クリティック」により(問題把握とあわせ)認識する必要がある。明治維新の富国強兵路線この方、日本国における信用とは戦争による植民地からの強奪のために一元的信用マシーン(with暴力)たる日本国(「親方日の丸」「日本株式会社」)に全ベットすることであった2024/04/06

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