内容説明
現在の美術を作り出した「境界」が引かれ、社会に浸透していく過程を、制度史的視点から捉えた画期的論集。近代において「美術」概念や日本画をはじめとする諸ジャンルは、いかにして形づくられ、純化へと向かっていったか。衝突や動揺を引き起こしつつも、五感の秩序における視覚の優位、工業社会の到来、固有の造型芸術への意志、これら三つが推進力となって「美術」は成立した。だが、その境界は画定し切ったわけではない。裂け目を孕みながら、未完の運動体として今もわれわれの目の前にある。『眼の神殿』と対をなす本書は、新たな作品創造と歴史記述の可能性へと読者を導く。
目次
序章 「美術」概念の形成とリアリズムの転位/I 国家と美術/「日本美術史」という枠組み/文展の創設/国家という天蓋──「美術」の明治二〇年代/美術における「日本」、日本における「美術」──国境とジャンル/II 性と国家/裸体と美術──違式違条例を軸に/美術における政治表現と性表現の限界/III 美術の境界──ジャンルの形成/「日本画」概念の形成に関する試論/「工芸」概念の成り立ち/「彫刻」ジャンルの形成/IV 制度から主体へ/工業・ナショナリズム・美術/印象と表現──日本印象主義のアポリア/終章 「分類の時代」の終わりに/初版「後記」/文庫版あとがき/解説(中嶋泉)/初出一覧/「美術」形成史関連年表/主要人名索引