内容説明
【第170回 芥川賞候補作】
割りあてられた「男」という性別から解放され、高校の演劇部で人魚姫役を演じきった。
そんな真砂(まさご)が「女の子として生きようとすること」をやめざるをえなかったのは――。
『人魚姫』を翻案したオリジナル脚本『姫と人魚姫』を高校の文化祭で上演することになり、人魚姫を演じることになった真砂は、個性豊かな演劇部のメンバーと議論を交わし劇をつくりあげていく。しかし数年後、大学生になった当時の部員たちに再演の話が舞い込むも、真砂は「主演は他をあたって」と固辞してしまい……。
自分で選んだはずの生き方、しかし選択肢なんてなかった生き方。
社会規範によって揺さぶられる若きたましいを痛切に映しだす、いま最も読みたいトランスジェンダーの物語。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
184
第170回芥川賞候補作・受賞作第二弾(2/5)、川野 芽生、初読です。本書は、トランスジェンダーの憂鬱、正にBlueでした。 「迷彩色の男」同様、この系統の作品は、山田 詠美&トランスジェンダーの選考委員(存在していますでしょうか❓)が強く推さないと受賞は難しいと思います。 https://www.bungei.shueisha.co.jp/shinkan/blue/2024/02/03
シナモン
104
すばる2023年8月号で読了。正雄、真砂、眞靑ートランスジェンダー、ほとんど知識がないから何とも言えないけど、その人がその人らしく生きられる世の中であればいいな。ありきたりな感想しか書けない自分がもどかしい。 「関係ない。男として暮らしてる男が女を演じたり女として暮らしてる女が男を演じたりもしてるんだよ」 2024/01/16
いたろう
78
芥川賞候補作。主要な登場人物は、高校演劇部の5人。そのうちの何人かは、心の問題を抱えていたりするが、最初のうちは、そうとは分からない書き方になっている。タイトルの「Blue」というのは、小説中で言及される、映画「ムーンライト」の中の台詞であり、この映画の原案となる戯曲のタイトルでもある、「月明かりの下で、黒人の子は青く見える」In moonlight, black boys look blue. から取られているよう。これは、生きにくい世の中でも、自分が輝ける場所がある、というような意味合いなのだろうか。2024/03/12
藤月はな(灯れ松明の火)
64
「選ばなかった後悔より、選んだ後悔」と言う言葉がある。この言葉は、環境に負けず、痛みや犠牲、周囲を蔑ろにしても自ら選ぶ事を重き価値が置かれ、尊ばれる事を象徴しているかのような言葉だと思う。では、選ばなかった事は価値が低いのか?『人魚姫』の演劇を通して自らのセクシャリティ/ジェンダーと向き合った高校生。その象徴となったトランスジェンダーの「真砂」は転換できず、「眞靑」になるしかなかった。真砂が就活前に性転換を目指していた理由に就職活動の履歴書に必ずある性別欄に違和感を感じていた事を思い出し、苦い気持ちになる2024/03/03
もぐもぐ
56
すごく切ない話だった。トランスジェンダーの高校生の真砂。演劇部で仲間たちと人魚姫を演じる前半と、その3年後大学生となったみんながコロナ禍の中再会する後半。どちらの性別でも生きにくい真砂。自分がトランスを全然理解できていなかったことが分かって読んで良かった。演劇部員たちの、性別を曖昧にした描き様が印象的でした。2024/03/03