内容説明
市役所の水道部に勤め、水道を止める「停水執行」を担当する岩切は、3年間支払いが滞っている小出秀作の家で、秀作の娘・恵子と久美子姉妹に出会う。小出の妻は不在、秀作も長いあいだ家に戻っていなかった。姉妹との交流を重ねていく岩切だったが、停水執行の期限は刻々と迫っていた――。芥川賞候補にもなった表題作「渇水」を含めた3編を収録。厳しい日常を懸命に生きる人々を濃密に描き出す、絶望の底に希望の光がきらめく作品集。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ドワンゴの提供する「読書メーター」によるものです。
ケンイチミズバ
101
私ならこんな仕事は続けられない。上司はこの家族のことを書類でしか知らないし。しかし、彼は市民と直に対面し、一人一人の顔が脳裏に刻まれるのだから。執行した彼は、とても重い責任の一端を感じることに。予感が、こうなることがあらかじめ予想されてもいた。仕事によってはそれを長く続ければ心を病んでしまう人もいる。昨今ならクレームの処理などが想像しやすい。ライフラインで最後に止まるのが水道で、それはいちばん生死にかかわるものだから。それでも最後の最後、給水停止を執行しなくてはならない事がある。決して無慈悲にではなくて。2023/06/19
やっさん
97
★★★☆ 3篇とも死が隣にあるわりと重めのストーリー。舞台はおそらく50年以上前なんだけど、貧窮の人たちの暮らしは本質的に今とあまり変わりがないように感じる。表題作は実体験ベースなだけあり、妙にリアルだった。2025/06/07
aquamarine
77
表題作は、市役所の水道部で支払いの滞った家庭の水道を止める停水執行を担当する男視点での話。電気ガス水道の中で、命に関わる水は最後に止められると聞いている。しかし3年も滞ったらやはり止めるしかないのだろう。この物語はバブル末期に書かれたとのことだが、なぜか現代の方が貧困がリアルに身近にあるような気がする。物語のラスト、執行を行ったゆえにおきたことに思わず息をするのを忘れた。生田斗真主演で映画化され今週公開。この特別な感覚を映像ではどう表現したのだろう。…他は墓の移動の話と通夜の話。どちらもとても濃かった。2023/05/29
やも
75
お初の作家さん。茹だるような暑さのこの時期にピッタリかなって思って読んでみたら、芥川賞候補作だったらしい。知らなかった。150ページほどに【渇水】【海辺のひかり】【千年の通夜】の3作が収録。渇水は市役所下水道部勤務の人が、滞納してる家庭の水道を停めるって話。著者さんには水道局勤務の経験があるらしいけど、なるほど。リアリティさがすごい訳だ。ただ水道停めて終わり、ではなくてその後の後日談がシビアで…なぜこんな社会になったのか、大人として考えなくてはいけないな。他2話もなかなかにシビア。悲しくなってしまったよ。2025/07/08
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47
🌟🌟☆☆☆。2023年6月に公開された映画『渇水』(鑑賞済み)を含む三篇の短編集。三篇に共通するテーマは「死」。なので全体的に暗い。【渇水】著者の体験を基にして書いた私小説的作品。愉しむ前にどうも俺は著者の文体と相性が悪いらしい。中々スッと胸に入って来なかった割に読んだ後も印象が薄い。珍しく原作ではなく映画の方が良かった。【海辺のひかり】とにかくお母さんがひたすら可哀想なお話。あとは訛りがエグ過ぎて読み辛かった。【千年の通夜】三篇の中では一番読みやすかったものの「ふ〜ん。」ってカンジの感想。2023/06/15




