内容説明
江戸の町で人外のものを狩り鎮める、謎めいた美しき男がいた――。
「江戸版陰陽師」ここに開幕!
江戸時代、凶悪犯を取り締まる火附盗賊改の裏組織が存在した。
専ら人外(にんがい)のものを狩り鎮めるその名は、火龍改。
満開の桜の下で茶会を催していた一行から悲鳴が上がった。
見れば大店のお女将の髪が逆立って、身体ごと持ち上がっていき、すっかり桜の花に隠れてしまった。
見上げる者たちの顔に点々と血が振りかかり、ぞぶ、ぞぶ、ごり、という音のあと、
どさり、と毛氈の上に女の首が落ちてきた――。
遊斎は、飴売りの土平、平賀源内らとともに、この怪奇な事件の謎を追う(「桜怪談」)。
短篇「遊斎の語」「手鬼眼童」「首無し幽霊」も併録。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
mahiro
30
江戸版陰陽師か…江戸時代は平安時代より馴染みがあって捕物帖的面白さがある、平賀源内なども出てくるし、ちらっと蟬丸や博雅の名が出て来たのには笑った。道満に似た播磨法師なんかもいい。まあやっぱり平安の陰陽師のほうが好きだが、こちらのカジュアルな(と言って言いのか?)のも悪くない。2023/05/21
RIN
20
艶のある長い白髪を赤い紐で無造作に束ね、道服の如きものを身に纏い、年齢不詳の容貌、その眸は赤く、なまめかしい。人の世に住む、人ならぬものを相手に美しき謎の男は、怪を鎮め人の世の理を正す己の技をふるう。活気溢れる江戸の町、あらゆる欲望の影で深い闇がじっとりと身を潜め辺りを窺っている。飴売り、与力、剣の名手、耳と目となる仲間と共に、赤い唇を濡らし遊斎は微笑む。胸に秘めた筈の言霊が、憎しみの果ての狂乱が、救いと道連れを求めて蠢く。二胡の音色は遠い異国の響き。行こうと導く声は時と人を超え、ほんの少しの郷愁を誘う。2023/09/08
瀧ながれ
17
「江戸版・陰陽師」というあおりの通り、読みながら「陰陽師」を思い出した。でも、ある描写では「キマイラ」や「餓狼伝」を思い出し、別の一行では「闇狩り師」を、また別の一言では「猫弾きのオルオラネ」を思い出し、つまり夢枕獏の作品なのだこれは。美しくて猥雑、不可思議にして人間の物語に他ならない。巻末の中編はもちろん読み応えあったのだが、前半の短編くらいのボリュームが、妖しい謎が残って読みやすいなと思った。2023/10/04
カマンベールねこ
17
火盗改の裏の顔、火龍改か面白そう!と思って読む。思ったんとちょっと違うな…もっとこう、呪術の心得があるお役人集団が登場するのかと思ってたけど、江戸時代に舞台を移した陰陽師だわ。いや江戸版・陰陽師って書いてあったけど、ここまでそのままとは思わなんだ。遊斎は晴明みたいだし、播磨法師にいたっては道満様御本人だよな…。逆髪だなぁとか、名前だけとはいえ蟬丸に博雅とか、どうも陰陽師の影がちらついて仕方ない。陰陽師好きだから良いんだけどね。2023/05/28
ゆうこ
14
整理されていない部屋、部屋の中に転がる怪しいモノたち、部屋に佇む白髪の男。十分魅力的なのに、物腰が柔らかく、子供に好かれている。その男、遊斎が江戸の町で魔物を退治していく。どの話もおぞましく、血生臭い話だが、主人公が泰然としているのでおぞましさ、不吉さを感じない。陰陽師よりも時代が後だけに起こる事件も陰湿だ。「首無し幽霊」がいい。さすが釣り好きの作家だけのことはある。このシリーズはぜひ続きが読みたい。表紙のデザインもいいなぁと思ってみてみたら「クラフト・エヴィング商会」とあった。なるほど惹かれるはずだ。2023/05/20