内容説明
私を捨てた“お母さん”の走馬灯には、何が映っているのだろう。
人生の思い出をめぐる、謎めいた旅行会社に誘われた16歳の少女のひと夏の物語。
小川春香、16歳。3歳で母に捨てられた彼女は、育ての親である祖母も亡くし、正真正銘のひとりぼっちだ。そんな彼女が出会ったのが走馬灯を描く旅をアテンドする〈ブレーメン・ツアーズ〉。お調子者の幼馴染、ナンユウととも手伝うことに。認知症を患った老婦人が、息子に絶対に言えなかった秘密。ナンユウの父が秘めていた、早世した息子への思い。様々な思い出を見た彼女は。人の記憶の奥深さを知る。そんな折、顔も覚えていない母から「会いたい」と連絡が来るのだが……。
私たちの仕事は走馬灯の絵を描くことだ。
それは、人生の最後に感じるなつかしさを決めるということでもある。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
283
重松 清は、永年に渡って新作を読んでいる作家です。本書は、ノスタルジー家族走馬灯ファンタジーの感動作でした。終活は、ブレーメン・ツアーズにお願いしたい。本書の舞台は、山口県周南市でしょうか❓ https://www.gentosha.co.jp/book/b14924.html2023/04/20
hiace9000
179
作者自身の「現時点での人生観」の投影にも思える重松作品。本作もまた然り。夢叶わずとも、もし夢に辿り着けずとも、幸せはきっとある。"臨終の瞬間に人は自分の人生をどう受け止められるか"、おそらくそこが重松さんの今、なのだろう。悔いのない人生などない、思い出そのものより、それを持ったまま生きてきた歳月の方が重いーという受け止めは、人の弱さやさみしさ、失敗までもを優しく肯定してくれる。記憶し、忘れ、懐かしむ…。未来ある高校生たちを主人公としながら、ある程度年齢を経た大人達に、改めて人生の来し方を見つめ直させる。2023/07/11
いつでも母さん
169
泣かせる重松ワールド全開だった。ファンタジーだけどどっぷり浸って読了した。走馬灯を描く仕事『ブレーメン·ツアーズ』なんて··最期に何を見ただろう。最期に何を見るだろう。気になって仕方がない。大切な思い出が正しい思い出とは限らない。辛くても大切な思い出はある。幸せな思い出と、幸せそうな思い出は違う··嗚呼、重松さんの紡ぐ言葉が私の心をザクザクと滅多打つ。16歳の遥香と、友人ナンユウの家族の話が私の涙腺を刺激する。走馬灯に正解なんて無い。確かめる術も無い。2023/04/30
モルク
140
母に捨てられ祖母に育てられた遥香。高校生となり祖母が亡くなり一人で暮らす。人生の最期に見るという走馬灯をコーディネートする会社ブレーメンツアーズ葛城と出会い、友人ナンユウと手伝うこととなるが、遥香とナンユウにはある能力があるらしい。私はどんな走馬灯を見るのだろう。父母や子供との思い出、そして夫との生活…学生時代の夏休みに帰郷した時、土曜日の夕方に父と散歩に出かけ途中で焼鳥とビール…店の人にお嬢さんですかと聞かれ嬉しそうだった父、父の亡くなる1年前の出来事、その時のことが浮かんだ。色のついた思い出である。2023/07/30
とん大西
140
親も最初から親だったわけじゃなく、子もいつまでも子どもじゃない。わかっていてもココロはままならない…よね。死期を悟った人の安らぎのために、遺された人の憂いを和らげるために。人生の走馬灯をととのえるブレーメン・ツアーズ。あぁ、このファンタジー、もどかしい人情の機微。泣いてしまうかもしれない、と思ったら、やはり終盤で号泣ウルウルになりました。「負い目があったから、その後の人生を全うできた。走馬灯での後悔はそんな彼女の人生への敬意だ。」…もう、グサグサきたょ。はるかとふうちゃんの距離感もなんとも…ね。2023/05/14