内容説明
ウェブ会議やマスクをしての会話、密の回避など、私たちのリアルな顔や身体性はパンデミックによって大きく損なわれた。文化人類学・哲学・心理学をつなぐ人文社会学の領域として、異文化融合のための理解を目標として取り組んできた「顔・身体学」の研究者たちはそこに何を見出したか。現状の分析とコロナ後の明日を考える。
目次
第1章 コロナ下でのコミュニケーションとポスト・コロナに向けた顔身体[山口真美・渡邊克巳]
1 この本の出発点――コロナ下での「顔・身体学」
2 コロナ下、顔と身体の乖離
3 コロナ下で二次元世界に占有され、分離される顔と身体
4 オンラインで隠される/晒される顔身体
5 マスクをめぐる発達的問題について
6 ポスト・コロナの顔身体に向けて
第2章 マスクの心理学[河原純一郎・宮崎由樹]
1 マスクの装着率――身近な観察から
2 マスクを装着することに対する信念
3 マスクの装着が外見的な魅力に及ぼす効果――衛生マスク効果
4 COVID-19流行が衛生マスク効果に及ぼす影響
5 COVID-19流行がマスク装着頻度に及ぼした効果
6 マスクの色の効果
7 小顔に見せる効果
8 着香マスクによる花粉症の不快感低減効果
9 COVID-19流行を通して気づいたこと
第3章 オタク文化/カワイイ文化とその越境――ポスト・コロナ状況下のコミュニケーション論の視点から[床呂郁哉]
1 日本発のオタク/カワイイ文化の概要
2 海外におけるオタク文化、カワイイ文化
3 「カワイイ文化」のフィールドワークから
4 カワイイの多義性――キモカワ、グロカワ、エロカワetc
5 東南アジアなど海外に広がる日本のカワイイ文化――コスプレ、萌え、腐女子
6 バーチャル・アイドル
7 戦闘美少女
8 日本発のオタク/カワイイ文化の表現形式――写実的表現と記号的表現の混淆や並置
9 海外に越境するコスプレ文化――東南アジアを題材に
10 コスプレにおける越境的な身体表現
11 「変身」や越境にともなう摩擦やコンフリクト
12 ポスト・コロナ時代の「萌え」――コロナウイルスの擬人化表現をめぐって
13 ポスト・コロナ時代における日本発ポピュラー文化の可能性と課題
第4章 分断の倫理学――ヌスバウムの感情の哲学を手がかりに[小手川正二郎]
1 はじめに
2 感情の合理性
3 恐怖――共感を妨げる感情(1)
4 嫌悪感――共感を妨げる感情(2)
5 妬み――共感を妨げる感情(3)
6 結び――分断を思考するために
第5章 隠された身体・隠しえぬ身体性――「眼差し」によって触れることのできる世界とその変貌、そして可能性[小谷弥生]
1 はじめに 名を与えること、その意味について――「コロナ」が名指すもの
2 人間の条件、人間の限界――私たちが「人間である」ということ
3 コロナ時代の象徴――「マスク」という仮面の虚無
4 視覚と知と真実――「善と太陽」の比喩
5 自由の喪失から、再び自由を獲得するために――「眼差し(regard)」と恥辱
6 もうひとつ、別の仕方で――他者の顔を見ることの意味と「倫理」
7 友愛――フィリアと哲学、そして自由
8 エピローグ 触覚の喪失から再興への祈り――眼差すことで触れることのできる世界を癒すことについての試論
第6章 バリ島のコメディ劇における「障害」のある身体を巡る遊戯[吉田ゆか子・田中みわ子]
1 バリ社会における障害とコメディ
2 障害をめぐる笑いについての先行研究
ほか