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内容説明
一九八九年に「ベルリンの壁」が崩壊し、ドイツ統一への機運が高まる。だがソ連のゴルバチョフは統一に反対。英仏やポーランドも大国ドイツの復活を危惧し、米国のブッシュは冷戦の勝利とNATOの維持拡大を優先する。冷戦後の国際秩序について各国の思惑が交錯する中、「ヨーロッパの分断」を克服する外交を展開したのが、西ドイツ外相ゲンシャーだった。本書はドイツ統一をめぐる激動の国際政治を、最新の史料を駆使し描き出す。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
紙狸
24
2022年刊行。大佛次郎賞を受けた。1978年生まれの著者はまえがきで記す。ドイツ統一は、冷戦や東西分断の「終わり」を象徴するだけでなく、現代の「始まり」に位置する出来事でもあるのだーと。統一を巡って従来、西独のコール首相の業績を強調する向きが多かったのに対して、著者はゲンシャー外相にスポットライトをあてた。最新の公開文書を活用した成果だというのは分かる。ただ、ゲンシャーってそんなに立派な人だったか、という疑問は残った。旧ユーゴスラビアからのクロアチア独立をいち早く承認したことは当時、批判されたはずだ。2023/01/26
ジュンジュン
9
「ベルリンの壁の崩壊は、ドイツ統一の可能性を開くと共に、第二次世界大戦の亡霊を蘇らせる出来事であった」(214p)。二つの分断(東西ドイツと冷戦下の欧州)の克服を目指した西独外相ゲンシャー(コール首相はドイツ統一が最優先)を中心に据え、錯綜するドイツ統一プロセス(89/90)を見つめる。本書では脇役に位置するソ連だが、キーパーソンはやはりゴルバチョフだと思う。当時、ソ連が危機的経済状況だったとはいえ、平和裏に実現できたのは彼の決断が大きいと思う。もし、プーチンだったら…。2022/11/04
peco
4
あまりにも突然に思えたベルリンの壁の崩壊からなぜあんなにも短期間でドイツの統一が成し遂げられたのか、しかもNATOへの完全帰属という形で。長年の疑問であった。その奇跡的な歴史的大変換の裏側の外交努力をまるで一編の映画を見るようにしかし綿密な資料に裏付けられた史実によってあぶり出した労作。歴史とは大きな流れの中の偶然のピースと個人の不断の判断と行動との掛け合わせで作られていくのかと。相手の事情を慮りつつ信念をもってことにあたる。これぞ外交。第二次世界大戦がそうであったように、処理の綻びが新たな戦争につながる2023/01/09
げんき
2
(タイトルとは裏腹に)東西ドイツ統一のプロセスに関する概説書ではなく、従来注目されがちだったコール首相に対置する形でゲンシャー外相が果たした役割に注目する、という(一般読者にとっては)ややマニアックな本。ペレストロイカ・汎ヨーロッパピクニック・ベルリンの壁崩壊、といった東側陣営の出来事は背景的出来事としてしか描かれていない。冷戦の終結方法としてゲンシャーが「和解」型をコールが「勝敗」型を唱えたが、ゲンシャー外交は結果的にソ連の妥協を引き出すことでコール外交の勝利に貢献した、という皮肉な図式は説得的だった。2023/05/09
たけふじ
2
ドイツ統一を議論する「2+4」の枠組みの中で、西独が重要視したのは米とソ、とりわけソ連だった。東欧革命の流れからドイツ統一が不可避になる中、西独はソ連の死活的利益はNATOとの対峙のあり方を変えることだと見抜く。そして西独はブラントの東方外交から連なる75年のヘルシンキ宣言 で合意された主権的平等(p161)をてこに、ゲンシャーが「東方へのNATO領域の拡大は生じない」(p134)と演説するなど、西独はソ連の承認を得るためのお膳立てを進めていく。この議論が2022年になり、プーチンに利用されるのは皮肉だ。2022/10/06