内容説明
すがすがしく力強い声がする。
この先、人間として小説家として迷ったとき、
私はこの本の言葉に奮い立たされることになるだろう。
ーー宇佐見りん
山田詠美は常に今を生きている。それも常に今に迎合せずに。
だからこそ、誰よりも文学を愛した少女は、誰よりも文学に愛される作家となったのだ。
ーー吉田修一
初めて「売文」を試みた文学少女時代、挫折を噛み締めた学生漫画家時代、高揚とどん底の新宿・六本木時代、作家デビュー前夜の横田基地時代、誹謗中傷に傷ついたデビュー後、直木賞受賞、敬愛する人々との出会い、結婚と離婚、そして……
積み重なった記憶の結晶は、やがて言葉として紡がれる。「小説家という生き物」の魂の航海をたどる本格自伝小説。
私は、この自伝めいた話を書き進めながら、自分の「根」と「葉」にさまざまな影響を及ぼした言霊(ルビ:ことだま)の正体を探っていこうと思う。
ーー山田詠美
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
starbro
239
山田 詠美は、新作中心に読んでいる作家です。本書は、本格自伝小説という触れ込みですが、自伝小説というよりも、自伝的エッセイでした。著者はイメージよりも真っ当な人生を歩んでいます。しかし宇野千代を師として仰いでいるとは思いませんでした。 https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000004583.000001719.html2022/12/10
R
88
自伝というには、軽くて読みやすすぎて、エッセーなのだけども語られる内容に時代を感じて、文壇という怪しからんものの香りを嗅げるものでとても面白かった。デビュー時はすごく大変だったろうことがわかるのだけど、怨念めいた恨み節ではなく、そういうこともあったと、もはや昇華してしまっている強さが読めて楽しい。小話のように、でてくる挿話は歴史の生き字引的な風もあって、文壇のある時代を生きた人なんだと、その語りを聞けるようですごくよかった。2023/05/15
ネギっ子gen
63
発表舞台が、リスペクトする宇野千代先生の『生きていく私』と同じ毎日新聞紙面。エッセイと見紛う“「根も葉もある嘘八百」のような自伝めいた小説”。著者は、生まれて初めて書いた小説でデビュー。<20代半ばだった。今現在とは全然異なるポイントにおいて厳密だった私。色々と許せないことが多かった。では、今、60を過ぎてどうかと言えばずい分と柔らかくなったのである。いい加減さをマスターしたのか、世に言われる「こだわり」というものが格好悪く思えて来た>。著者あまり読んでない。以後心して読みたし。えっへん! ははははは。⇒2023/05/13
ぼっちゃん
54
【2023年2月号 ダ・ヴィンチのプラチナ本】山田詠美さんの自伝小説とのことだったが自伝エッセイのようだった。子供時代お小遣い稼ぎのため、自分で書いた本を家族に売ろうとする話。芥川賞・直木賞候補時の誹謗中傷。宇野千代さんをはじめ多くの文壇の人たちとの関係など、なかなか興味を誘う話ばかりで面白かったです。【図書館本】2023/01/08
ころこ
52
書評を読んで気になり、手に取ってみる。自伝的なエッセイで実はこうだったという風なテイスト。社会と闘っていた初期作品しか知らないが、その原点は親の仕事の都合による転校を繰り返したことによるイジメと、イジメに端を発した人間関係の洞察と余計な人間関係の諦めにあることが分かる。背景が分かるので、彼女の小説が読み易くはなる。読者も増えるかも知れない。しかし、それで失われる緊張感はある。大きな困難に襲われた時に直ぐに書くタイプと、後々まで自分の内にためておくタイプの作家がいるという。彼女は当然、後者だという。2024/01/04