内容説明
介護される人は、どんな世界を
生きているのだろう
特養老人ホームの日常にあふれる謎。
それは人生の軌跡につながっていた――
『ワンダフル・ライフ』で「読書メーター OF THE YEAR 2021」総合第1位。重度障害者の妻と約30年寄り添う著者が紡ぐ、渾身の連作短編集。
笑ったのち、7回泣けます。
〈あらすじ〉大森康介は新米介護士。特別養護老人ホーム「まほろば園」で働き始めたものの、便臭にはまだ慣れることができない。しかも認知症の人、言葉が不明瞭な人相手の仕事は毎日が謎解きだ。認知症の登志子さんが一度だけ食欲を取り戻したのはなぜ? 口に麻痺のある當間(とうま)さんが言う暗号「アアイオウエ」の意味は? その答えにたどり着いた康介は、この仕事の面白さにちょっとだけ気づき……。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
旅するランナー
320
お仕事小説の佳作。若手介護士大森康介くんが見る介護現場の現実。経験を重ねていくうち、仕事への本気度が高まり、仕事をする喜びを感じる。入居者にも介護士にも、一人一人にそれぞれの人生があり、ドラマがある。切なさと爽やかさが同居する読後感です。2022/07/06
いつでも母さん
224
特別養護老人ホームで働く新米介護士・康介の成長物語。だけじゃないのはやっぱり丸山さん。介護するスタッフの本音があり、入所者の状況や心情も切なかったりする。『仕事だから介護出来る』ある意味真実だと思う現実もある。重度障害者の奥様と30年寄り添っている作者には頭が下がるのみで、私の不安や葛藤など笑われそうだが、それぞれに抱えている思いはまた別の話。親や連れ合い、家族を入所させる立場で読むとやっぱりそこは『人』情のある温かい施設で介護であって欲しい。そう思うのは私の我儘か?本作も考えさせられる丸山さんだった。2022/06/14
fwhd8325
220
丸山さんの作品にしては珍しいコミカルなタッチ。それでも随所に経験や調べられた内容が反映されていると思いました。主人公が次第に成長していく姿に好感を持てます。2022/08/11
しんたろー
191
特別養護老人ホームで新人介護士・康介を主役にした連作短編集…重くなりがちな老齢化社会の問題点を丸山さんとしては軽妙なタッチで描いていて読み易い。望むような仕事に就けず、仕方なく介護職を選んだ康介の成長物語であり「お仕事小説」としても巧く成立している。康介が愚痴ったり悩んだりする姿は介護の現実を知らない私の代弁のようで、著者の狙いもそこにあるのではと思った。先輩・鈴子、風俗嬢・このみ、二人の女性がキーマンとしていて効いて、終盤には目頭が熱くなった。『デフ・ヴォイス』に続くシリーズものとして期待できると思う。2022/08/10
モルク
187
老人介護施設、特養で働き始めた康介。3Kといわれる職場のきつさに康介は毎日辞めたいと思っていた。が、よき先輩に恵まれ次第にその活路を見いだしていく、康介の成長物語。様々な入所者たちを見つめ接していくうちに彼らの望んでいること、本音にも触れる。とにかく介護職の人手が足りない。離職率も群を抜いている。この待遇じゃあなかなか継続は難しい。今後少なからずお世話になるであろう身としては、彼らの待遇を改善し楽しく明るく介護される側と接してもらいたい。そしてさらに成長した康介のその後も見てみたい。2023/01/22