内容説明
《裏切り》の戦略をとるがんは、根絶するのでなく《手なずける》べきもの。この新しいパラダイムの本質がわかる、目から鱗の生物学。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
アキ
103
原題:The Cheating Cell.がんを進化生物学の観点から捉え、多細胞生物に特有の性質と考え、撲滅する対象ではなく、適応療法つまり手懐ける手法を提唱する。「私たちはがんと共に生まれ、がんと共に生き、がんと共に死ぬ」がんは私たちの生命の一部とする考えが腑に落ちた。細胞レベルで生体は進化を毎日繰り返している。増殖と抑制の間のバランスを取り綱渡りをするのが発達なのだ。がん抑制は常に二重三重に網を掛けているが、巨視的な見方をすれば、癌を抑制しつつ長寿をする人も、人類の進化への試みであるのかもしれない。2022/03/05
kamekichi29
6
多細胞生物全てに癌が生じる。植物にも癌があるというのは驚いた。多細胞生物ではいろんな細胞が協調しているが、自分勝手に成長していくがん細胞は裏切り者。 他の癌の本でも見かけましたが、適応的な治療方法というのが注目されているらしい。完全に元を取り除こうとするのは難しく、取り除けず残ってしまった癌はこれまでの治療を回避するように進化してしまう。そこで、癌が発現しない程度までしか癌細胞が成長しないように治療の強弱を変えていくというもの。今後の研究に期待。2022/03/08
vonnel_g
5
がん細胞を多細胞生物の進化という視点から捉え、なぜ制圧が難しいのか、そして制圧ではなく共生していくという従来とは全く違う角度からの新しい治療を紹介した本。面白い。多細胞生物はだいたいがんを持っているというのは甲状腺の調査で知っていたけれど、植物でもがんに相当するものができているというのは知らなかった。重曹を服用してがんの進行を遅らせる研究があると知って驚いた。2022/12/23
Masa
4
イヌもタスマニアデビルも致死的な特有の感染性のがんがあって、それは遺伝子の多様性が失われるような出来事に端を発していて、その出来事を作り出したのは人間だったとは… 感想書いてて気付いた。最初は大人しくて無害な存在だったけど、あるとき何かのきっかけで無秩序に際限なく周囲の資源を貪り尽くして、周りに浸潤して最後は自分も含めた全体を滅ぼすのって…がんはメタファーなのか?!2022/04/14
yuka_tetsuya
2
がんを進化という観点から捉えると、がんの不思議な現象の意味が見えてくる。生物学的におもしろい現象を知ることができた。例えば象のTP53遺伝子は40コピーあり、巨体で長寿にもかかわらず癌になりにくいのは癌か細胞にアポトーシスを積極的に起こすためである事、BRCA1遺伝子変異を持つ女性は子どもが平均2人多く、そのため遺伝子淘汰が起こらなかった、HeLa細胞より起源が古い犬の感染性がん細胞の存在、父系由来と母系由来遺伝子の役割など。2023/05/17