内容説明
ひとはなぜ影を恐れるの?影が西洋美術で重要性を増した理由は?私たちが見ているのは「現実」そのものではなく、その影にすぎないのだろうか?小ぶりで美しいこの本の中で、版画家で美術史の教授の著者が影の歴史を物語る。美術における影の誕生から、死や無意識との関係まで、自然科学、心理学、美術、建築などの幅広いジャンルに目配りして影を紹介するこの本を読めば、世界の見えかたが一変するに違いない。
感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
旅するランナー
227
影にまつわる、いろいろな話。影の捉え方にも歴史があるのですね。それと、道尾秀介著「雷神」に出てきた“プラトンの洞窟”や、谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」による影の繊細な風雅を愛でる感性なんかが書かれていて、とても興味深いです。映像の中の影として、「カリガリ博士」、「吸血鬼ノスフェラトゥ」、「市民ケーン」、ヒッチコックの「断崖」、キューブリックの「時計じかけのオレンジ」などの映画作品も紹介されてます。最近は、こういう陰影が印象的な映画ってなくなってきたかもしれません。2021/08/08
どんぐり
94
影の性質や、影のもつ意味を写真・図版とともにコンパクトに解説した本。「自然界の影」「心の中の影」「美術における影」の3部から構成している。陰と陽、光と影は、対立物でありながら互いに自らの性質を示すために相手を必要とする関係にある。明があっての影、影があっての明だ。地球の影たる夜があるからこそ、人は果てしない星空の宇宙を見ることができる。これこそ陰翳礼賛。「自然界の影」の最初に「視る機能」が紹介されている。視る機能は2つの視細胞が関係する。一つは、明るいところで働く光の三原色を感じ取る錐体細胞、→2022/04/06
けんとまん1007
52
影。光があり、物があり、影がある。どれ一つ、欠けても、そうならない。自然、芸術、音、心・・・。深いテーマ。2022/04/16
あじ
37
「本書は、影の性質や、われわれにとって影が持つ意味について考察した本である」と前書きにあるように、影の名称や見える仕組みと行った段階から読者の興味を引き出してくれる。フロイトやユングといった心理学の側面であったり、美術・映像技法の視点から眺めてみたり、小冊子でありながらありあまる“影”の雰囲気を湛えていた。また谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」も取り上げており、シャドーエキスパートの称号があるならば、著者が相応しいとさえ思った。物陰にうずくまる黒い影を気に掛けてみよう。そして私の存在を証明してくれる影を想いたい。2021/10/14
くさてる
24
影。光があるところに必ずあらわれるもの。それをテーマにした美しい一冊。影そのものの歴史や文化での取り扱われかたが、広く紹介されていて面白かった。谷崎潤一郎「陰影礼賛」も取り上げられています。2021/11/06